【2750冊目】角田光代『さがしもの』
「新潮文庫の100冊2021」全冊読破キャンペーン72冊目。
「本」にまつわる短篇集です。「旅する本」「だれか」「手紙」「彼と私の本棚」「不幸の種」「引き出しの奥」「ミツザワ書店」「さがしもの」「初バレンタイン」の9編に、「あとがきエッセイ」がついています。
どの作品にも、本が登場し、「本を読む人」が登場します。古本屋に売った本に旅先で再会する「旅する本」、本を共有した彼との別れを本と一緒に振り返る「彼と私の本棚」など、読むほどに、本は本だけでは存在しないこと、そこにはかならず本を手に取り、読み、本棚に差す「人」がいることが感じられ、そのことがなんとも言えず心地よい一冊です。
特によかったのが「ミツザワ書店」でした。作家デビューした青年が思い出す町の本屋。店員はおばあさん一人で、乱雑に積み上がった本の中、売り物の本をずっと読んでいるような、そんな「ゆるい」懐かしい本屋が、かつては町の中に何軒かあったものでした。
入院した祖母に頼まれて本を探す「さがしもの」もよかったです。憎まれ口を叩く祖母の心の裏側にある寂しさ。いろんな本屋をめぐるうちに、自分自身も書店員になってしまった「私」。本と人をめぐる小さな、でも確固としたドラマが、そこにはしっかりと息づいています。
「本は人を呼ぶ」と、著者は「あとがきエッセイ」で書いています。本書に描かれているのは、そんな、本に呼ばれてしまった人々なのかもしれません。そして、私自身もまた、思えばそうやって「本に呼ばれて」本を読んできたのでした。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!