自治体職員の読書ノート

自治体職員。仕事は福祉系。読書は雑食系。

【2751冊目】谷川俊太郎『ひとり暮らし』


新潮文庫1002021」全冊読破キャンペーン73冊目。


著者は詩人だが、本書は詩集ではなくエッセイ。日常のつれづれやいろいろな思いをやさしい言葉で綴っているが、その奥はとても深い。そのあたりは、エッセイとはいえさすが谷川俊太郎、というべきか。


生と死をめぐる文章が面白い。著者は葬式について「結婚式に行くのよりずっといい」と書く。なぜかというと、結婚式にはどうしても「未来」がつきまとうが、未来には心配や不安がつきものだ。だが葬式には「未来というものがない」。だから気楽なのだという。


だいたい、みんな「死」のことばかり心配するが、実は「生」のほうがむずかしい。生活というものに隠れがちな「なまなましい生の現実」に向き合うための言葉が、もしかしたら詩の言葉なのかもしれない。そこでは「生きていてよかった」というような薄っぺらな表現など通用しない深淵がある。「ほんとの生はもっと無口で不気味だと私は思います」という著者の言葉にギョッとする。


こんなふうに書くと、なんだか小難しい本のようだが、そして実際に「小難しい」こともいろいろ書かれているのだが、そう感じさせないところがやはり谷川俊太郎の「ことばの使い方」のうまさなのだろう。ユーモラスな話も多く、個人的には、郵便受けから忍び込んできた子どものドロボウの話が印象的だった。忍び込んできた子どもではなく、自分に届く郵便物の多さのほうに腹を立て、買ってきた木の丸棒を郵便受けの内側につけるのだが、「その作業を何故か私は浮き浮きとやった」というのがおもしろい。


やさしく、深く、おもしろい、なんて何かのキャッチフレーズみたいだが、実際そのとおりの名エッセイ集。その底に流れているのは、そこはかとなく暖かく、そして厳しい谷川俊太郎の人柄そのものなのだと思う。


最後までお読みいただき、ありがとうございました!