【2137冊目】宮部みゆき『ペテロの葬列』
いきなりのバスジャック事件にはじまり、事件の真相を被害者たち自らが探る流れをメインに、主人公・杉村三郎の会社事情や家庭事情を絡めていく。『誰か』『名もなき毒』に続く杉村三郎シリーズの3作目……なのだが、どちらかというと『火車』『理由』の系譜に連なる、社会問題をテーマに取り上げた正統的社会派ミステリーに近い。
ただ今回のテーマは、なかなかに重い。いわゆるネズミ講なのだが、被害者が他の人を巻き込む加害者になっていくという構造が、なんとも残酷で悲惨。友人や家族、同僚を勧誘したばかりに、金だけでなく人間関係まで失ってしまうこの犯罪の過酷さが、ありありと描かれている。
ラストの衝撃にはびっくりしたが、私は現代モノを書く宮部みゆきは「黒宮部」だと思っているので(ほんわかした描写や人物造形に騙されやすいが、登場人物を悲惨な目に遭わせることにおいて、この人は本当に容赦がない)、ああ、また出たか、という印象だった。
ただ、そのインパクトが強すぎてメインを食ってしまっているのは、いささか残念。もうちょっとソフトなやり方(例えば杉村自身が自発的に……とか)もあったように思うんだが。その意味で、ちょっとバランスの悪い作品ではあった。次回作も出ているようだが、どんなふうに展開するのか楽しみだ。