【2680冊目】宮部みゆき『あかんべえ』
時代小説で人情モノ、お化けも登場しミステリ要素もたっぷりと、こう書いてみるといかにも盛りだくさんなのだが、それを感じさせずすっきりとまとめあげ、しかも一気に読ませる。さすがの名人芸である。
中でもずば抜けているのが「子どもの描き方」のうまさ。主人公の12歳の「おりん」など、「女の子」から「少女」になりつつある年齢の微妙な心の揺れ動き、女の子の純粋さに少女のずるさが少しずつ混ざり込むあたりの描写など、本当に鮮やかである。
ややチョイ役気味だったがラストはかなり大事な役割となる「ヒネ勝」の、ひねくれていて意地悪ばかり言うが本当は優しくて人思い、という男の子の描き方も素晴らしい。なんで宮部みゆきは女性なのに、こんなに「男の子のメンタリティ」を熟知しておられるのか。これに匹敵するものとしては、宮崎駿の作品での少年少女の描き方くらいしか思いつかない(たとえばおりんに相当するのは、魔女のキキや千尋あたりだろうか)。
おりんなど一部の人にしか見えない「お化け」をうまく使ったストーリーテリングも鮮やかだ。だいたいこういう設定を自然に、けれん味なくやってしまうところがとんでもない名人芸なのであって、こちらはスティーヴン・キングあたりを思わせる手際である。
なぜ一部の人にしかお化けが見えないのか、なぜ彼らは成仏できず現世にとどまっているのか、といった謎もラストで見事に回収され、その瞬間に小説全体の周到な構造が読者に見えるという仕掛けには、もうため息しか出ない。その中に込められた宮部みゆきのメッセージは、実はとてもシンプル。曲がったことをせず、貧しくともまっとうに生きることの大切さが、しっかりと伝わってくる佳品である。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!