hachiroetoのものぐさ遊読帖

自治体職員。仕事は福祉系。読書は雑食系。

【2735冊目】森下典子『日日是好日』


新潮文庫1002021」全冊読破キャンペーン59冊目。ちなみに前回、前々回に続き、こちらも映画化された作品です。なんという偶然。


とはいえ、本書は小説ではなくエッセイです。著者がお茶を学びはじめてから25年にわたる、悪戦苦闘と気づきの日々が、みずみずしく描かれています。


私自身はお茶を学んだことがありません。なので、本書で説明されている作法の細かさには驚きました。茶室に入る時は左足から、敷居と畳のへりは踏まず、畳一帖は6歩で歩く。お湯を汲む時は釜の底、水の時は真ん中から・・・・・・。こんなのはまだまだ序の口。しかも、それを頭で覚えるのではなく、「手が勝手に動くようになる」まで繰り返すことが必要なのです。


意味も理由も教えられず「ただ繰り返せ」と言われた著者は、反発しながらも稽古を重ねます。そして何年も経ったある日、突然に気づくのです。作法は不自由なのではなく、私たちを自由に解き放つものであることを。私たちの人生とは「長い目で、今この時を生きる」ものであることを。そして、それは言葉で伝えることなどできず、ただ日々の営みに真摯に向き合うことで、自ら気づくものであることを。一見煩瑣に見える「お茶」の稽古は、そうした気づきを得るためのものであったのです。


本書は読みやすいエッセイですが、言わんとしていることはおそろしく深いものです。というか、体験を通して感じ取るしかないことを、著者はあえて、文字にして伝えてくれているのです。もっとも、文字を読んでも、その意味するところは本当はわからないのでしょう。禅では、それを不立文字と言いますね。いやはや、見事、見事。けっこうなお手前でございました。


最後までお読みいただき、ありがとうございました!