自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【1954冊目】開高健『白いページ』

 

白いページ―開高健エッセイ選集 (光文社文庫)

白いページ―開高健エッセイ選集 (光文社文庫)

 

 

最初に白状すると、どうも開高健という作家とは「趣味」が合わない。本書でいえば、ほとんどが「酒」「釣り」「旅」のことを書いているのだが、私は酒についてはビール一杯で真っ赤になるほどの弱さだし、釣りはどうも残酷趣味に思えてあまり好きになれない。旅は決して嫌いじゃないが、著者が行くような、ビアフラやらヴェトナムやらの激戦地(本書が書かれたのはヴェトナム戦争の最中だった)はご免こうむりたい。そんな具合であるから、『輝ける闇』や『オーパ!』の著者である開高健は、自分には縁のない作家だと決めつけていた。

それを読む気になったのは、こないだ新潮文庫のアンソロジーで読んだ「掌のなかの海」がなかなか良かったところ、たまたま図書館で本書を見かけたこと、パラパラめくってみると短いエッセイが並んでいて、ちょうど旅行前だったので、分厚さもあって旅行中のコマ切れの時間に読むにはちょうどよいか、と思えたことが重なったためであった。

読み始めたら文章がするすると頭に入ってきて、やめられない止まらない。40年くらい前の文章であり、時事ネタも多く、しかも中身は「酒」「釣り」「旅」なのに、である。時代とか趣味嗜好が全然違うのにこれだけ読ませるというのは、考えてみればスゴイことだ。

小ネタとして面白い話もいろいろあるのだが、中で印象に残ったのは、作家志望者に向けた意見として挙げられた4点。これがけっこう意外なのだ。曰く、第1に「収入をべつに持つこと」。第2に「作家同士あまりつきあってはいけない」。第3に「他人の作品を読んではいけない」。第4は、この著者としては月並だが「旅をしなければならない」というものである。まとめれば、こんな感じになるらしい。

「小説を書くほかに別途の収入源を確保し、自分が書いているときは内外問わず他人の作品を読まないようにし、なるだけ作家以外の職業の人とつきあい、旅をし、旅先では三文雑誌を読み、帰国したら書きたいことを書きたいときに書きたいように書く。
 そして”女”である」(p.218)

さすがは開高健。筋金入りの書き手である。