hachiroetoのものぐさ遊読帖

自治体職員。仕事は福祉系。読書は雑食系。

【2705冊目】宮本輝『錦繍』


新潮文庫1002021」全冊読破キャンペーン27冊目。


昨日紹介した『白いしるし』と同じ、30代の女性が主人公。でも、その二人の、なんと違うことか。


『白いしるし』の夏目さんは、よく言えば若々しく、悪く言えば幼い。一方、本書の亜紀には、静かで落ち着いた、しかしどこか覚悟の定まった、芯の強さを感じた。それは結婚に離婚(しかも理由が、夫と浮気相手の心中未遂)、さらに再婚という人生の経験値の差か、あるいは先天性の脳性麻痺で障害をもつ息子を育てる母としての強さなのか。


本書は書簡小説なのだが、そのやりとりをしているのが亜紀と、例の心中未遂の末に離婚した元夫、という時点でなんともスリリング。そして、手紙のやり取りが進むにつれて内容が深まり、生と死についての本質的な思索に至るのがものすごい。中でも全体を貫くのは、亜紀がモーツァルトを聴きながら思い至り、相手の有馬がそこから思いを巡らせるきっかけとなる、次のことばであろう。


「生きていることと、死んでいることは、もしかしたら同じかもしれない」


最後までお読みいただき、ありがとうございました!