【1557冊目】辻村深月『ツナグ』
- 作者: 辻村深月
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2012/08/27
- メディア: 文庫
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一生に一度だけ死者に会える「使者(ツナグ)」をめぐる連作長編。映画にもなったので、ご存知の方も多いと思う。
5つの章からできているが、ある程度のパターンが最初から固まっているのが面白い。使者が高校生と知ってびっくり。病院の中庭での聞き取り。そしてホテルの一室での面会が物語のクライマックスになり、それまでの伏線が一気に収斂していく。
このパターンはよくできていて、「定番」の良さが活きている。わずか5篇(しかも、そのうち1篇は使者サイドから見た「ネタバレ」的ストーリー)で消費してしまうのがもったいなく感じた。むしろ、作家としてはずいぶん潔いというべきか。
商売としてみれば、5つ目の「使者の心得」はカットし、使者については謎のままにしておけば、延々と連作が書けたような気もする。マンガだったら間違いなくそうなっていた。あるいは、この枠組みを使って、いろんな作家さんに「競作」してもらうのもいいかもしれない。浅田次郎なんて、こういうの得意そうだ。伊坂幸太郎や川上未映子あたりでも、面白いのが出てきそう。小川洋子バージョンや宮部みゆきバージョンも読んでみたい。誰か企画してくれませんか。
さて、映画は未見なのだが、これを映画にするのはけっこう大変だっただろうな、と思う。なにしろ本書の醍醐味はなんといっても、著者ならではの絶妙の心理描写にあるのだから。死者に会うことを決意するまでの心の揺らぎ。実際に会えることが決まった時の驚きと戸惑い。ホテルの部屋を開ける直前のドキドキ。著者はこうした心の動きを描写しながら、同時に登場人物の個性や性格をあざやかに造形してみせる。映画やドラマでこれを再現しようとしたら、役者さんの演技力がかなり高くないとキビシイだろう。
なかでも印象に残ったのは、女友達同士の微妙な心理の綾を描いた「親友の心得」。本当にささいなところから感情のきしみが生まれ、元が親友だけに、どんどんドツボにはまっていく。その裏側が「使者の心得」で明かされるという仕掛けが実に巧みで、なんとも唸らされた。
それにしても「一度だけ死んだ人と会える」と言われたら、私ならどうするだろう。私の場合、誰に会うにせよ、実際にホテルまで行ったら、「待ち人の心得」の男のように背を向けて逃げ出してしまいそうだが。まあ、そんなことを想像しながら読むのも、この小説の楽しみなのである。