【216冊目】宮部みゆき「楽園」
- 作者: 宮部みゆき
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2007/08
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- 作者: 宮部みゆき
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2007/08
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「楽園」なき世の中でもがき苦しむ人々を温かく描き出す、宮部みゆきの長編最新作。
亡くなっているとはいえ、超能力をもつ子どもの登場(「魔術はささやく」「龍は眠る」「霊験お初捕物控」等、大人なら「クロスファイア」等)、はじめに死者や行方不明者といった「欠損」が生じ、そこを軸に物語が動いていくこと(「火車」「理由」等)、さらに「模倣犯」の登場人物による物語であることも含め、まさに宮部みゆきという作家の集大成的な作品になっているように思う。
人物描写の上手さや会話の鮮やかさは相変わらずだが、今回特にすごいなと思ったのは、謎を解いていく(あばいていく)という行為に対する疑問や異議がきちんと提示され、主人公である前畑滋子がそこときちんと向き合い、乗り越えようとしているところである。確かに世の中には「明らかにすべきではないこと」「解いてはならない謎」などがごまんとあるわけで、この問いかけ自体は世間的には至極まっとうなものであるが、ミステリーでこれを正面から問うていくことは、下手をするとミステリー小説の自己否定になりかねないのに(もちろん、宮部みゆきはそんな下手な小説の作り方はしない)。むしろこのあたりを誠実に捉えていくことで、この小説はミステリーという枠を超えて行こうとしているように思えた。
とはいえもちろんミステリーとしても十分楽しめ、テンポの良い展開、ほろりとさせられるエピソード、そしてちょっぴりほろ苦さの残る結末など、エンターテインメントとしても絶品。面白い。