hachiroetoのものぐさ遊読帖

自治体職員。仕事は福祉系。読書は雑食系。

【249冊目】宇江佐真理「深川恋物語」

深川恋物語 (集英社文庫)

深川恋物語 (集英社文庫)

江戸深川の庶民を描いた短編6篇。「恋物語」とあるように、どれも男女の仲が話の中心となっている。

この作家の小説を読むのはこれが初めてだが、とにかく江戸の情景や人々の会話、習俗の描き方が上手いのにびっくり。どちらかといえばさらりとした筆致なのだが、その淡々とした描写の中に江戸の生活が実に生き生きと息づいている。夏の深川のべったりとした暑さや、縦横に伸びる掘割の水面のたゆたい、そこから吹いてくる風の涼しさまでが手に取るように感じられる。

それに会話も自然で上手い。とりわけ、口は悪いが情に厚い、江戸っ子のちゃきちゃきした物言いが格好良い。「凧、凧、揚がれ」の凧職人末吉の口の悪さも面白いが、特にすごいのが「狐拳」の元辰巳芸者のおりんの切る啖呵の鮮やかさ。私がこんな啖呵を浴びたらおそらく一言も返せまい。

ストーリーはどちらかといえばそれほどひねりのないストレート球だが、その中になんともいえないふんわりとした哀愁がある。江戸深川の庶民を描いた作家として、私がすぐ思い浮かぶのは宮部みゆき山本一力(あと池波正太郎の「鬼平」)であるが、宇江佐真理も独自の味を出していて面白い。