【1669冊目】サキ『サキ短編集』
- 作者: サキ,中村能三
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1958/03/18
- メディア: 文庫
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サキの短篇はいろんなアンソロジーの中でちょこちょこ読んできた。読むたびにその風刺の寸鉄の鋭さに唸ってきたが、こうしてまとまった形で手に取ったのは初めてかもしれない。
サキが生涯に書いた135の短篇から、21篇をセレクトした一冊。「最後の一行」のキレのあるどんでん返しがサキの身上だと思っていたが、そうでもない短篇も多い。いわゆる「奇妙な味」のもの、読み終わってからじわじわと「来る」もの……。
自然な描写や対話から、あっという間に読み手を引き込んでしまう。巧い。本書に「話上手」という短篇があるが、まさにサキこそが「話上手」の極みであろう。ちなみに短篇「話上手」では、伯母の話がつまらなくて冷やかしてばかりの子どもたちに独身男がおもしろおかしく、しかし毒と風刺の効いた、まさにサキ流のショート・ストーリーを話すのだが、大喜びする子どもたちの脇で、伯母はつぶやく。「小さな子に話してきかせるのに、こんな不適当な話ってありませんよ。あなたのお蔭で、何年もの注意ぶかい教育の力がめちゃくちゃになりましたわ」
これこそおそらく、サキ自身が当時の「良識ある」読者たちに浴びせかけられていた言葉ではなかったろうか。だが現実には、人は道徳的でつまらないお話より、毒と風刺に満ちた面白い話をこそ聞きたがるのだ。まさに独身男が最後につぶやくように。「かわいそうに! あの伯母さんは、これから半年やそこいらは、あの子供たちから、人の前だろうとなんだろうと、不適当な話をしてくれと、さぞねだられることだろうな!」
そうなのだ。サキの話は病みつきになるのである。その鋭い風刺とブラックユーモア、時に残酷かつ無慈悲で、道徳的などとはお世辞にも言えない。悪意は善意にまさり、皮肉が道徳を超えるのが、サキの中毒的小説世界なのだ。
なかでも「最後の一行」でひっくり返すパターンの作品は、さすがの名人芸を見せてくれる。「二十日鼠」「開いた窓」「宵闇」あたりは、まさに絶品だ。この間読んだディーヴァーの短編集もそうだが、サキこそは(あとはO・ヘンリーだが)この種の短篇の元祖であり、お手本的存在であろう。しかもブラックなオチのつけ方となると、サキの切れ味を超える作品にはなかなかお目にかかれない。
短篇の名人芸を、ご堪能あれ。