自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【2643冊目】能町みね子『お家賃ですけど』


東京は牛込にある築40年以上の「加寿子荘」での生活や、オーエル(著者は「OL」ではなく「オーエル」と書きます)や副業の日々を、淡々と描いたエッセイです。


「加寿子荘」というのは著者が勝手に名付けただけで、実際には建物の名前もついていません。だいたい外観はただの一軒家です。推定80代の加寿子さん(途中で83歳だとわかります)が1階で暮らしていて、2階に上がると何部屋かの貸部屋があります。トイレは和式、内風呂は3部屋中1部屋だけ、共用のキッチンからはなぜか外(2階ですが)に直接出られる扉がついているという、昭和の香りただようあやしいアパート。でも、著者にはそれがちょうどよかったらしく、一度出ていくのですが、また空き部屋があるのを知って戻ってくるのです。


ちなみに、出ていく時は著者は男性で、戻ってきたときは性転換をして女性になっていたらしいのですが、この本がフシギなのは、そんなことがわりとサラッと書いてある一方、それ以上の分量で、ガスの点火がなかなかできないこととか、加寿子さんとのほんわかしたやり取りのこととか、副業のデザイン業のため通っていた先の「師匠」がいきなり焼き鳥屋になることになったこととかが書かれているのです。


でも、それがなんとも自然で心地良いのですね。私だけかもしれませんが、読んでいて、なんだかお茶漬けのようなエッセイだな、と感じました。押し付けがましくなくて、サラッとしていて、でもなんともいえない懐かしい香りがある。時々挟まれる「加寿子荘」の写真も、良い意味で時代に取り残されたような、味わい深いものがあります。いろいろ大変でしょうが、一度はこんなところに住んでみたいものです。


最後まで読んでいただき、ありがとうございました!