【2642冊目】下條信輔『サブリミナル・マインド』
本書のメッセージを一言にまとめると「自分とは、もう一人の他人である」ということになるでしょうか。もう少し具体的に言えば「自分の心は、いくつかのサブシステムから成っている」ということになります。要するに「私とは『たくさんの私』なのである」ということです。
例えば「笑顔になると嬉しくなる」ように、私たちの感情は、意外と外的な要因に支配されています。知覚にしても、脳の障害のため視野の左半分が認識できない人は、無意識のうちにそこにあるものを「補って」います。記憶にしても、健忘のある人は、どこで覚えたかは忘れても、例えばゲームのルールや自転車の乗り方は覚えていたりします。
さらに問題は、私たちの「自由意思」すら、実は自由ではないということです。例えば、スーパーで洗剤を選ぶ時、多くの人は無意識のうちに、コマーシャルなどで見覚えのあるものを選んでしまうといいます。それも、具体的な効き目や値段をコマーシャルで知って選ぶのではなく、単に「何度も見ている」だけの理由で。選挙の時に名前を連呼するのも、それによって無自覚のうちに、その候補者に投票してしまうという効果が期待できるからなのです。
本書は認知科学の本ですが、その射程範囲は相当に広いものがあります。例えば自由意志の問題は、「その人を罪に問えるか」ということにも関わってきますし、そもそも人間に自由などありうるのか、という哲学的なテーマにもつながりますね。
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