自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【2666冊目】 さくらももこ『もものかんづめ』


いや〜、こりゃやばかった。面白すぎる。電車の中で読んでいて、プルプル震えてしまった。


さくらももこの日常を描いたエッセイなのだが、とにかく何気ない出来事やその時の感覚を言語化するのがうまい。例えば冒頭の「奇跡の水虫治療」でいえば、著者が水虫になったことを知った姉の顔は「冷酷極まりないナチの司令官の様」であり、著者の水虫研究は「野口英世並みの熱意」であって、それでも治らないとなれば「水虫持ちの女には、海も彼氏も贅沢品なのだ」とすねてみせる、といった具合で、これがリズム良く連打されるのだからたまらない。


特に爆笑したのが、祖父の葬式を描いた「メルヘン爺」。「祖父は全くろくでもないジジィであった」という書き出しからいきなり不謹慎モード全開で、その後も口を開けたまま亡くなった祖父の顔を「ムンクの叫びだよありゃ」、口を閉じようと白いさらしの布を探したが見当たらず、しょうがないから使ったのが「豆しぼりに『祭』と赤い字で印刷された」町内の盆踊り大会で配られた手ぬぐい、お経は聞いているうちに「ボーズがビョーブにジョーズにボーズの絵をかいた」のエンドレスにしか聞こえなくなり、弔辞に至っては「最初から最後まで老人会の話題」でよほど褒めるところがなかったのだろう、という具合なのだ。


そして、著者の「うまさ」を本当に感じたのはそのラスト、居士という戒名に感心しているところに母が「あたしゃ、生きてるうちにいい目に遭えりゃ、居士でもドジでもなんでもいいよ」と言い、そのとき「位牌が少し傾いたような気がした」と締める。さんざん笑いのめしてきた祖父への愛着と愛情がラストで感じられ、なんとも味のあるエッセイになっているのである。


ちなみに「肉親の死を笑いものにするなど不謹慎」という「マジメな」批判もあったらしいが、葬式とか結婚式のような「笑ってはいけないシチュエーション」だからこその笑いというのがあることをご存知ないのだろう(ちなみに自身の結婚式を描いた「結婚することになった」も面白い。こちらでは父のヒロシがやっぱりさんざん笑いのネタにされつつ、ラストでしんみりさせてくれる)。


まあ、漫画家にこんなエッセイを書かれてしまっては、プロの「エッセイスト」を名乗る方々は立場がない。個人的には、ジャズピアニスト山下洋輔のエッセイと双璧をなす爆笑エッセイでありました。『ちびまる子ちゃん』の面白さは、なるほどここから来ていたのですね。


最後まで読んでいただき、ありがとうございました!