【2564・2565冊目】劉慈欣『三体』『三体2 黒暗森林』
久しぶりにSFを読んだら、とんでもないことになっていた。なんじゃこりゃ。
次々に起こる科学者の自殺。目の前に見える人生の残り時間のカウントダウン。宇宙背景放射のモールス信号。周の文王やニュートンやアインシュタインが登場する謎のVRゲーム「三体」。のっけから見たこともない展開の連続だが、文化大革命で父を殺され、人類に絶望した科学者が、宇宙からの交信を受け取った時、物語はさらに意外な方向に転がり始める。3つの恒星をもつ「三体世界」から、宇宙艦隊が地球に向かって進んでいるというのだ。到着はなんと、今から450年後。
この三体世界の科学技術水準がとんでもない。地球に放たれた、陽子の中に11次元で折りたたまれた「智子(ソフォン)」は、地球上のすべての動静や会話を傍受する(そのため、人類が取り得るすべての対策は筒抜けになる)。そこで人類が立てた戦略は、面壁者と呼ばれる4人の人物に絶対的な権限を与え、彼らの「思考の内側」で、宇宙艦隊に対抗する方策を考えさせるというものだった……。
どう考えても面白いプロットなのだが、物語はさらにそこから二転三転、予想もつかない方向に飛びまくる。物理学の小ネタも満載であり、一見とっつきにくいが、メインプロットは現代SFとしては奇跡的なほどにシンプルなのでご安心を。超極細のナノワイヤーで船を切断したり、「強い相互作用」で作られた物体が宇宙空間で大暴れしたりと、エンタメ要素にも事欠かない。イーガンあたりの現代SFというより、アシモフやクラーク、日本でいえば小松左京あたりの、古き良きSFを思わせるシンプルな力強さを、この小説からは感じる。
個人的に一番びっくりしたのは、本書で提示される「フェルミのパラドックス」への回答だ。この広い宇宙空間で、なぜ異星人とのコンタクトが起きないのか? 本書の答えは、まさに宇宙が「黒暗森林だから」というものだ。そのヒントは「猜疑連鎖」と「技術爆発」。前半で葉文潔が提示したヒントが、驚くべき答えとなる。そこまで見透かしていた葉もスゴイが、その「答え」から新たな戦略を導き出したルオ・ジーも見事。鮮やかな逆転劇で第2巻は幕を閉じるのだが……あれ? まだ「第3巻」があるんだっけ? いったいどんなことになるのだろう。というか、果たしてこれ以上の展開というのはありうるのだろうか。すでに私のリミッターを、この第1巻と第2巻だけで軽々と振り切ってしまっているのだが。