自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【2566冊目】佐藤優『人たらしの流儀』

 

人たらしの流儀 (PHP文庫)

人たらしの流儀 (PHP文庫)

  • 作者:佐藤 優
  • 発売日: 2013/03/05
  • メディア: 文庫
 

 

タイトルはキャッチー、というか露悪的だが、中身は人間関係構築のための具体的なノウハウ。というか、われわれが人間関係を築きたいと思う時って、たいていホンネでは「人たらし」が目的だったりすることが多い。そこをストレートに突いたという意味では、なかなか鋭いというか、いささか意地悪なタイトルといえるかもしれない。

人間関係を築くための「自分の磨き方」から初対面での気持ちのつかみ方、借りをつくらない付き合い方から「別れ方」まで書かれているが、どれも著者の外交官時代の実践に基づくものだけに説得力がある。面白いのは「嘘をつかないこと」というルール。インテリジェンスの世界というと騙し合いの世界のように思えるが、実は嘘をつかないことが大事だという。なぜなら、嘘をつくことを許容するとゲームのルールが複雑になり過ぎるから。これはビジネスの世界でも同じことで、相手が嘘をつくかもしれない、ということを前提にすると、余計な手間やコストがかかり過ぎるのだ。だから小さな嘘をついてばかりの人間は、人間関係から排除されることになる。

だが、だからといって何でも正直に伝えていては、特に外交の世界は成り立たない。そこで大事なのが「嘘をつかずに嘘をつく」というやり方だ。例えば「熱帯の大きな動物で、足が大きく皮膚はザラザラ、ちょっと毛が生えていて細いシッポがあります。この動物はなんでしょう?」と聞かれたら? 象、と答えた人は甘く、答えは犀。文句は言えない。「鼻がどうなっているか聞かなかったお前が悪い」のだから。これが「嘘をつかずに嘘をつく」方法だ。

ケースワークに役立ちそうな技法も多い。特に「話を聞くこと」「オウム返し」の重要性は、そのまま相談援助面接の要諦につながる。「相手と3カ月以内に3回会う」というのも有効だろう。最初は挨拶。その時に何か借りる。借りたものを返すのに2回目(これは「質問に答える」とか「サービスのパンフレットをもっていく」とかになるだろうか)。その御礼ということで次の予定を入れて、3回目。これで3年は関係がもつ。その3年の間に実績を挙げれば、一生モノの共存共栄関係が作れるという。

それ以外にも「本の読み方」「新聞からの情報の取り方」など自分の内面を充実させるための方法、異業種交流会の上手な利用の仕方など、「人たらし」になるためにも、また「人たらし」に騙されないためにも読んでおいて損はない、実践的かつ「濃い」内容の一冊だ。