自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【2691冊目】劉慈欣『三体III 死神永生』



中国生まれのSF巨篇『三体』の完結編。相変わらず、予想を裏切り続ける展開が読者を飽きさせない。


VRを取り入れつつ、地球を舞台に人類同士の戦いを描いた『三体』、面壁者や宇宙戦争(というか一方的な虐殺)を描いたスペースオペラ・エンターテインメントの『三体Ⅱ 黒暗森林』に続き、本書で展開される物語は、ある意味もっとも抽象度が高く、SF的な想像力を極限まで推し進めたものだ。しかも、ネタバレになるので詳しくは書かないが、え、ここまでやるの、という出来事の連続なのである。


中で読んでいて嬉しかったのは、「物語」が小説全体に大きな役割を果たすところ。これまたネタバレしない範囲で言えば、ある人が語る物語の中に複雑に隠された謎を解くことが(あるいは解けないことが)、人類の救済への大きな鍵になってくるのである。


なぜこれが嬉しかったかといえば、「物語ること」が人類特有の営為であり、物語のかたちで知恵を後の世に伝えることが人類の歴史であったことを、このエピソードは力強く証明してくれていると感じたから。しかもこの物語は、ある事情のため「記憶」によってのみ伝えられるのだ。まるでホメロス稗田阿礼の世界ではないか。


SF的な設定だけで言えば、本書を上回る作品はたくさんあることと思う。だが、奇抜な着想から壮大な物語を紡ぎ出し、人類愛と生命賛歌をその中に織り込むとなると、やはりこの作品を超えるものは少ないのではないか。そういう意味で、これは小説として歴史にのこる一冊なのではないかと思う。


最後までお読みいただき、ありがとうございました!