【2507冊目】藤井誠一郎『ごみ収集という仕事』
大学で教えるセンセーが、9カ月にわたりごみ収集の現場で働きつつ「参与観察」を行った。本書はそこから見えてきたごみ行政の現実をもとに、歴史をふり返り、未来を考察する一冊だ。
参与観察とは「調査者自身が調査対象である社会や集団に加わり、長期にわたって生活をともにしながら観察し、資料を収集する方法」(デジタル大辞泉)のこと。未開の民族の研究などでよく用いられるが、まさか自分にとって身近な、公務員の職場で行われるとは。
そこから見えてくる清掃作業の大変さと奥深さは予想以上だ。ただごみを積み込むだけの仕事ではない。不燃ごみや資源ごみ、事業系ごみが混ざっていないか確認し、シュレッダーごみは飛散しないよう袋に穴を空ける。汁が飛散しないよう注意し、ごみボックスを掃除し、時間内に作業を終えられるよう最適のルートを瞬時に判断し、住民からの質問に答え、最終的にごみ処理場への搬入を時間内に終える。リスクの多い仕事でもある。ガラス片や注射針が入っていたり、爆発の危険のあるライターやスプレー缶が混ざっていることもある。
クレームも多い。通行人、ごみの汁がかかってしまった家、回収漏れと称して出し遅れたごみを引き取らせようとする人、事業系ごみを有料シールを貼らずに出し、注意するとキレる人。反社勢力への対応もあるというから、クレーム対応については、ひょっとすると役所の中でもかなり大変な部類に入るかもしれない。
著者ははっきりと清掃職員に好意的、同情的だ。研究者がここまであからさまに肩入れするのは珍しい気もするが、まあわかりやすくてよろしい。そのぶん、ルールを守らない住人への視線は厳しく、最近進みつつある清掃事業の委託に対しては強く批判する。委託が進み過ぎると清掃の現場業務がブラックボックス化する、という危機感はとてもよくわかる。清掃業務だけでなく、いろんなところでこの「委託によるブラックボックス化」の弊害が生じている。
同じ役所の中でも、清掃業務の内実は案外知られていない。本書は新宿区という一自治体の例ではあるが、その実情を内部からリポートした貴重な一冊だ。今後もこういう本が増えてほしいものである。次は生活保護ケースワーカーか税の徴収現場、あるいは清掃以上に委託が進んでいるであろう図書館業務あたりに「参与観察」してくれないかなあ。