自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【本以外】ゴッホ展に行ってきました

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思いがけず急に予定が空いたので、休みを取って上野の森美術館の「ゴッホ展」に行ってきました。13日までの開催なので半ばあきらめていたところだったので、ラッキーでした。

 

雨天の平日ということでそんなに混んでないかな、と思っていたのですが、行ってみたら予想外の人の多さ。終了間近ということもあるんでしょうが、さすがはゴッホ、というところでしょうか。上野の森美術館動線設定の微妙さもあいまって、館内は行き来する人でやや混乱気味。まあ、以前ここの美術館で開催された「怖い絵」展ほどのカオスではありませんでしたが。

 

「ハーグ派」「印象派」の影響によってゴッホの絵がどう変わったか、という点に着目して、ほぼ時系列でゴッホの絵を鑑賞するというシンプルな設定ですが、ゴッホに影響を与えた画家の絵が一緒に鑑賞できるのが愉しい。中にはセザンヌ、モネ、ルノアールゴーギャンといったAクラスの作品もあり、これは収穫でした。

 

肝心のゴッホの絵は、初期の写実的な作品からの変容ぶりが興味深いのですが、初期の作品が思いのほか暗く地味なトーンのものが多く、それが印象派の影響を受けての作品「麦畑」でパッと明るい色彩に変わる、その瞬間が鮮やかでした。これは時系列で眺めて初めて分かる劇的な変容ですね。その後は一挙に鮮やかで濃密なゴッホ・ワールドに突き進んでいき、有名な「糸杉」に至ります。ここは自分の絵を確信し、一瀉千里と突き進む猛然とした印象が強いのですが、実際にはまだまだ悩みも深く、試行錯誤もあったようです。なお、本展覧会では晩年の傑作はほぼ最後の一部屋のみとなっておりまして、もちろん「ひまわり」も「星月夜」も「ファン・ゴッホの寝室」もなし。それでも、ゴッホという稀有の画家の絵を実際に見るという経験は、他に代えがたいことであることがわかりました。

 

ゴッホの絵には、どうも鑑賞するための最適な「距離」のようなものがあるような気がします。近すぎるとダイナミックな絵具の「塗り」しか見えないのですが、少し後ろに引いてみると、ある瞬間、絵が「浮き上がって」見えるのです。焦点があった瞬間に、絵がその本性をむき出しにするというか。その迫力は、どんな画集を見ても感じられません。こればかりは「ホンモノ」に相対して初めて感じられるのです。

 

もちろんそれはゴッホに限りません。やはり素晴らしい絵であればあるほど、こちらが絵を見るという経験を超えて、絵がこちらに迫ってくるような感覚がするものです。個人的には、今回のゴッホに匹敵すると感じるのは、ターナーの空気感、若冲の細密なリアリズム、カラヴァッジョのダイナミズム、ジャコメッティの圧縮感でしょうか。

 

最近少しサボっていたのですが、やはり本物を見ることは大事だと感じた雨の一日でした。それでは。