【本以外】メスキータ展に行ってきました
開催終了まであと1週間となったメスキータ展を見に、東京ステーションギャラリーに行ってきました。
気になりつつなかなか足が向かなかった展覧会ですが、行ってよかったです。というか、もっと早く行けば良かった! 少なくとも夏休み前に行くべきでしたね。明らかに来たくなさそうな子供を引っ張り回して最後にはキレるお父さんとか、絵の真正面に立って顔を近づけて絵を見る中学生とか、絵以外に気になることが多い鑑賞環境でした。あのね。メスキータのタッチをまじまじと見たいのは分かるけど、混んでる展覧会で至近距離から絵を眺めたいなら、人がいないタイミングを見計らうか、絵の横に立って斜めのアングルから見るか、せめて短い時間で切り上げるんだよ。わかった?
メスキータという名前自体、たぶんこの展覧会以前だったら聞いたことさえなかったでしょう。19世紀から20世紀にかけてオランダで活躍した画家で、出自はポルトガル系ユダヤ人。最期はなんとアウシュヴィッツで命を落としたということです。その後、あのエッシャーがメスキータの絵を守ろうと動いたことでも知られています。エッシャーの師匠格ということらしいが、エッシャー的な不思議ワールドとは違う、独特の世界観を放つ作品が多いように思います。
リトグラフや水彩画もありますが、やはり図抜けているのは木版画です。彫刻刀のタッチをそのまま残した、一見粗削りなスタイル。だがそれがかえって独特の味になっていて、全体としてはなんともスタイリッシュでデザインとして秀逸です。余計な装飾を排した最小限の表現ながら、強烈なインパクトで忘れがたいものがあります。
例えばこの絵「トーガを着た男」では、男の周囲に後光のように射しているのはすべて彫刻刀で一本一本線を彫った、そのタッチそのものなのです(わかりますか?)。男の身体は手以外はほぼ黒一色ですが、それだけで黒い服を着ていることがしっかり伝わってくるのもスゴイ(この写真自体はホンモノを撮ったのではなく、外にあったスクリーンですが)。表情も最小限の表現で陰影までも伝わってくるのです。すばらしい!
日本の浮世絵の影響を受けていると言われますが、その省略の極致のような技法はむしろ禅画か、あるいは枯山水を思わせます。アール・デコ、シュプレマティズム、シュールレアリスム、どれにも近いようでどれとも違う、比類なき独自のアート。願わくばこの人の版画で構成された絵本を読んでみたいと思います。そういえばこの展覧会では、図録の購入はマストです。一時期品切れだったようですが、私が行ったときはしっかり補充されていました。たぶんこの展覧会を逃したら、メスキータの作品を手元で眺められる機会は二度と来ないかもしれませんからね。もちろん本物の迫力は目の前でまじまじと眺めなければ伝わらないでしょうから、まずは来週の日曜までに、何が何でも時間を作って東京駅に向かうことをおススメします。