hachiroetoのものぐさ遊読帖

自治体職員。仕事は福祉系。読書は雑食系。

【2626冊目】原田マハ『ゴッホのあしあと』


原田マハの『たゆたえども沈まず』は、良い小説だった。一人の人間としてのゴッホの姿を切々と描いていた。林忠正という実在の日本人をフィーチャーし、その功績を再評価したのもすばらしい。


本書はいわば、その「副読本」。ゴッホの生涯や日本からの影響をコンパクトに紹介し、林忠正の功績もあらためて評価している。それは、単に日本の美術を海外に知らしめた、というだけではない。西洋美術に影響を与えたジャポニズムの導入に大きな役割を果たしたことで、おおげさに言えば、世界のアートを変えた人物なのだ。


さて、とはいえゴッホである。著者は「ゴッホ狂人説を覆したかった」という。自分の耳を切ったり、精神病院に入院したり、最期はピストル自殺したりと「その手」のエピソードに事欠かないのがゴッホである。だが、著者はその具体的な状況をひとつひとつ検証し、その上で言うのだ。ゴッホは確かに心身症のような状態ではあったが、狂気に囚われていたわけではない、と。


確かに、ゴッホの作品は「狂っている」というより、苦悩と歓喜に満ちた、とてつもないエネルギーを感じる(その意味では、ベートーヴェンに近いかもしれない)。有名な『星月夜』も、彼がどん底の時期に描かれたものだ。著者はそれを「怪物的なポテンシャル」と呼ぶ。そして、ピカソのような天才ではなく、基本的に努力の人だった、とも。そのあたりは、小説を読んでも感じることができるだろう。


この間読んだ、手塚治虫に関するマンガを思い出した。手塚治虫がもっている、周りを巻き込むとんでもないエネルギー。ゴッホはどちらかというと「孤高」の存在だが、それでも弟のテオをはじめ、周囲を巻き込んでいくあのパワーは、どこか手塚治虫に似ているようにも思える。