自治体職員の読書ノート

自治体で働くソーシャルワーカーが、読んだ本を紹介します。

【2459冊目】松本俊彦編『「助けて」が言えない』

 

「助けて」が言えない SOSを出さない人に支援者は何ができるか

「助けて」が言えない SOSを出さない人に支援者は何ができるか

  • 作者: 
  • 出版社/メーカー: 日本評論社
  • 発売日: 2019/07/12
  • メディア: 単行本
 

 

今年も残すところあと数日だが、今年の「読書ノート」更新は今日がラストの予定。中止したり再開したりと相変わらず揺れまくった一年でしたが、お付き合いいただいたみなさま、ありがとうございました。

そんな今年の「最後の一冊」は、とても重い一冊。

日本の福祉制度は、基本的に申請主義と言われる。その中で、自ら助けを求めない人を支援することは、たいへんに難しい。だからこそ「受援力」なんてことが言われたり、支援者も再三の説得に疲れ果てて「支援を求めないのだから自業自得」などという思いをもってしまったりもする。

本書は、依存症、未治療の精神疾患、いじめ、性被害、自殺、ホームレスなど、さまざまな局面における「助けを求めない人」を取り上げて論じた一冊だ。なかには「助けを求めない支援者」について論じた章もあったりして、ドキッとさせられる。

助けを求めないのには、理由があることが多い。それも、その人自身の側に理由がある場合と、周囲に原因がある場合がある。「その人自身」の要因に関しては「心理的逆転」というワードが興味深い(第3章「『楽になってはいけない』という呪い」)。これは「自己利益に向かうという人の通常の動機づけの状態を逆転させ、敗北や不利益に向かう行動をとらせるように見える」状態のこと(p.30)である。

定義だけではピンとこないかもしれないが、具体例を見ると思い当たることもあるだろう。いわく「他によい選択肢が明らかにあるとわかっている時でも、失望、失敗、虐待を招くような人や状況のほうを選ぶ」「他者の助けを拒絶したり、その助けを無効化する」「他者から怒りや拒絶反応を引き出しておきながら、その後で傷ついたり、敗北感や屈辱感を抱く」エトセトラ、エトセトラ。こうした行動の背景には、その人の「深い部分に沈積された認知を書き換えていく」ことが必要である。本書で紹介されている「ホログラフィートーク」はその一手段だが、かなり高度なスキルを要する技法であり、いずれにせよこうしたケースで支援関係を構築するのは一筋縄ではいかないことがよくわかる。

だが、本書が力点を置いているのは、むしろ支援者側、あるいは社会の側。周囲の環境が、「助けて」という声を封殺しているケースである。例えば第1章「『医者にかかりたくない」「薬を飲みたくない」』の著者は、医療拒否の背景には医療者、支援者側のスタンスの問題があると指摘する。

「変わらなければならないのは、病院が嫌いで薬を飲まない当事者ではなく、なんとか当事者に薬を飲んでもらおうとつい考えてしまうわれわれ支援者や、そうすることでしか地域支援が成立しないような支援システムのほうなのだ」(p.18)

さらに第9章「虐待・貧困と援助希求」では、次のように書かれている。

「閉ざされた家庭にいる人は、『支援者の顔は笑っていても、目は笑っていない」と語る。困っている時には放置し、問題がどうしようもなく膨れあがってから笑顔で近づいてくる支援者への敵意がある。その根底にあるものは、助けを求めようにも迷惑だと避けられ、あるいは偏見によって拒まれてきたという体験であり、社会に対する不満である」(p.104)

 

特に家庭に踏み込むような支援を行う人にとって、この指摘は重要だ。通常、支援機関は、問題が軽微と思われる段階では積極的に家庭に踏み込むことはせず、リスクが高くなってから介入することが多い。だが、それは支援を受ける側からすれば「何を今さら」なのである。もちろん、問題が軽い時の相談先とハイリスク時の介入者が異なることもあるだろうが、だからこそ、どんな相談であっても軽視せず、問題が軽いうちにしかるべき専門機関に「つなぐ」必要があるのだし、専門機関側も、問題が軽いうちから支援の糸口をつくっておく姿勢が必要なのだ。

さらに支援者側の心構えとしては、相手のこころや行動の変化から援助の求めを読み取ることが必要となる。「助けを求めているのだとすれば何に困っているのだろうか」(p.120、第10章「認知症のある人と援助希求」)という問いかけを、支援に携わる人は常に持っていなければならない。また、第17章「どうして住まいの支援からはじめる必要があるのか」では「ハウジングファースト」という考え方が紹介される。これはホームレスなどの支援において「まず安定した住まいを提供する」というスタンスである。

これは依存症治療における「ハームリダクション」のいわば応用であって、いきなり「望ましい状態」をフルセットで押し付けず、「その行動に伴う害をできる限り少なくする」というもの。ホームレスで言えば、確かに疾患の治療や断酒、就労などの「支援」も必要だろう。しかし、いきなりそれらをすべて実現させようとしたら、かえって彼らは相談にも来なくなってしまう。まずは「安定した住まいを得ることで、ホームレス状態が続くことから生じる身体やこころへの危害(ハーム)を低減する」(p.202)のが大事なのである。

いずれにせよ「どうしてあの人は助けを求めないのだろう」と思う時、得てして私たち支援者は助けを求めないことを「相手の問題」と考えてしまう。だが、実はそれは支援者側、社会の側の問題かもしれないのだ。そう考えることで、支援の行き詰まりを打開する思わぬ方向が見えてくるかもしれない。本書はそのためのさまざまなヒントが詰まった一冊なのである。