【2243冊目】サン=テグジュペリ『夜間飛行』
「リヴィエールは、世界の半分を包むこの夜を見守る夜警なのだった」(p.39)
『夜間飛行』といえば新潮文庫の堀口大學訳だが、今回は古典新訳文庫を読んでみた(上のリンクはkindle版だが、読んだのはもちろん紙書籍)。堀口訳の格調もよいが、この二木麻里訳のやわらかさもすばらしい。フランス語が読めないのではっきりしたことはいえないが、たぶんサン=テグジュペリ自身の文章は、この二木訳に近いのではないかという気がする。
以前読んだ時は、空を飛ぶファビアンにひたすら魅了された。特に、暴風雨を突き抜けて雲の上に飛び出すシーンの美しさときたら! しかもそれは、二度と地上に戻れないという、凍てついた死の美しさなのだ。
だが、今回どうも気になったのは、地上にあって厳格なリーダーシップを行使するリヴィエールのほうだった。現場の采配をふるい、命令を発し、リスクを負う彼も、今読み返してみれば、夜の空を飛び続ける男の一人なのだ。管理する者、整備する者もまた、現場の一員なのである。そのことを、冒頭の一文は象徴しているように思える。
それにしても、この飛行感覚の見事さを、いったいどう形容したらいいのだろうか。月並みかもしれないが、願わくば宮崎駿に、この小説をもとにした渾身のアニメーションをつくってほしい。