【2001冊目】フョードル・ドストエフスキー『悪霊』

- 作者: フョードル・ミハイロヴィチドストエフスキー,亀山郁夫
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2010/09/09
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- 作者: フョードル・ミハイロヴィチドストエフスキー,亀山郁夫
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2011/12/08
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『罪と罰』が個人の、『カラマーゾフの兄弟』が血族の小説だとすれば、さしずめこの『悪霊』は集団の狂気を描いた物語というべきか。
実際の事件をモデルにしつつ、単なる焼き直しに終らないどころか、そこから立ち上がってくる人物像のインパクトが事件を超えて迫ってくる。冷徹で非人間的なスタヴローギンや、実際に内ゲバ事件を首謀するピョートルなどはもちろんのこと、西洋かぶれで小心なステパン・ヴェルホヴェンスキー、これもどこにでもいそうな押しが強く自分中心のワルワーラ夫人、さらには脇役なのにキャラ立ちしすぎのレビャートキン「大尉」やら時代遅れの「大作家」カルマジーノフなど、強烈なキャラが勢揃いなのだ。
その連中がまた、とにかくしゃべりまくること。ロシア人ってみんなこんなに饒舌なのか、読むほどに、怒涛のような会話の渦に呑み込まれる。ほとんど会話(というか、圧倒的なボリュームの「語り」の往来)で成り立っているとはいえ、油断できないのは、物語の筋を決定づけるような事件やら出来事やらが、その中で実にさらりと、さりげなく触れられていることだ。そのため、次から次へと繰り広げられる長広舌を読み飛ばしていると、気づけば筋書きから脱落し、話の筋が読めなくなっているから始末に悪い。
その点、この「光文社古典新訳文庫」は、それぞれの巻末に懇切丁寧な「読書ガイド」がついていて、私は正直これにかなり助けられた。筋書きを見失っていないつもりでも、実は大事な部分を読み飛ばしていたり、誤解したままに読み進めていることがよくあったからだ。こういう読み方が小説読みの邪道であることは承知しているが、誤読してしまうところは誤読してしまうので、致し方ない。
内容について多くは触れないので、筋書きだけを知りたい方はウィキペディアでも見てほしい。描かれているのは、急進的な革命思想が旧態依然のロシアで迎えた末路。歴史上のロシアが辿ったその後の道のりを知って読むと、凄惨な内ゲバも含めて、なんとも感慨深いものがある。でも革命家を名乗る連中って、たぶんどこもこんな感じなのでしょうね。むしろ個人的には、さまざまな場所であらわれる「こぎれいな」西洋趣味・西洋文化と、ロシアの土俗性のコントラストのほうが興味深かった。
その中でやや救いになっているのかな、と思えたのは、西洋かぶれのヴェルホヴェンスキー。会話にフランス語を混ぜるあたりはいささか「イヤミ」だが、ユーモラスでとぼけた味が一服の清涼剤のようになっている。