【2101冊目】『病短編小説集』
- 作者: E.ヘミングウェイ,W.S.モーム,Ernest Hemingway,W.Somerset Maugham,石塚久郎
- 出版社/メーカー: 平凡社
- 発売日: 2016/09/12
- メディア: 単行本
- この商品を含むブログを見る
「不治の病」といえば映画やドラマの定番だ。日本の小説でも、堀辰雄の『風立ちぬ』から最近の話題作『君の膵臓をたべたい』までいろいろある。本書は英米の作品に絞って「病気モノ」を集めたアンソロジー。結核、ハンセン病、梅毒、神経衰弱、不眠、鬱、癌、心臓病、皮膚病と、多彩な「病」を扱った小説が並んでいる。
ほとんど知られていないような作品も多く、目配りの行き届いたセレクション。今度は日本の「病小説集」も出してはくれまいか。その時には、北条民雄も夢野久作も筒井康隆も入れてほしい。
好みの差もあるだろうが、個人的に面白く感じたのは次の作品だった。
モーム「サナトリウム」:結核患者のサナトリウムが舞台の人間ドラマ。テンプルトンとアイヴィ・ビショップの恋愛もいいが、マクラウドとキャンベルのライバル関係がとにかく印象的だった。「強敵」と書いて「友」と読ませるのは、某マンガだけの話ではない。
ヘミングウェイ「ある新聞読者の手紙」も短いながら印象的だが、実はこの作品、実際の手紙をそのまま掲載し、短い文章を添えただけの作品として物議をかもしたという。だがそれをいうなら、そもそも作品の「オリジナリティ」ってなんなんだろうか。デュシャンの「泉」だと思えばよいではないか。
レッシング「十九号室へ」は、鬱という言葉をいっさい使わずに、鬱症状に陥っていくひとりの女性を描いた傑作だ。微妙な心理の動きが実にうまく掬い取られていて、最後まで間然としたところがない。この人の作品、実ははじめて読んだのだが、とても面白かった。
ショパン「一時間の物語」は四ページちょっとの長さしかない、短編というよりショート・ショートに近い作品で、長さだけでなく作品の雰囲気も、どこか星新一を思わせる。端的な描写のうまさ、伏線の張り方の巧みさ、そしてラストの衝撃度と、まさに「捨てるところがない」一篇。この作品に出会っただけでも、本書を読んだ甲斐があった。