【1918冊目】絲山秋子『ばかもの』
恋愛小説との触れ込みだが、私は死と再生のドラマとして読んだ。
大学生のヒデが主人公。気が強く奔放な額子に夢中になるが、額子は結婚してヒデのもとを去ってしまう。社会人になったヒデは、アルコール依存症になり、仕事も恋人も失ってしまう。徐々に「どん底」に至る描写が、怖くなるほど真に迫っている。
入院生活を終えて、ヒデは額子のもとを訪れる。そこで待っているのが、とんでもなく衝撃的な再会だ。ヒデが「死んで」いた間、額子もまた別の意味で「死と再生」をくぐり抜けていたのだ。底の底まで堕ちた者同士の、それなのにどこかぎこちなく、初々しい関係に、なんだか読んでいて目が痛くなる。
するする読める文章なのに、時々ぎょっとする描写があって立ちどまる。その瞬間、世界が違う顔を見せる(特に「想像上の人物」はおもしろい)。この人の描く世界は、どこかで別の世界に通じている。そのスキマを見つけるように読んでいくのが、なんとも楽しい一冊だ。