自治体職員の読書ノート

自治体で働くソーシャルワーカーが、読んだ本を紹介します。

【2575冊目】ジュール・ヴェルヌ『海底二万里』

 

海底二万里 上 (角川文庫)
 

 

 

海底二万里 下 (角川文庫)
 

 

小学生の頃、児童書のダイジェスト版で読んで以来の再会だから、う~ん、ウン十年ぶり? 当時はとにかく、スリリングな海底の冒険に度肝を抜かれた。その後の水族館好き、海洋生物好きは、すべてこの本がきっかけだった。

中身はすっかり忘れていたつもりだったのだが、読んでみるとあら不思議、みるみる当時の記憶がよみがえってくる。海底森林の散歩にサンゴの墓、古代都市アトランティスに沈没船の財宝、氷の中に閉じこめられる恐怖に巨大なタコの襲撃、船の襲撃にラストの大渦巻。それこそ海底に沈む船のように、すべてが記憶の底に残っていて、それが読み返すとともに表面に浮かんでくるのである。忠実な召使コンセイユと銛打ちの名人ネッドのコンビも懐かしい。

それほどに当時の児童向けダイジェストがよくできていた、ということなのだろうが、「大人向き」のオリジナルバージョンと何が違うかといえば、とにかくその圧倒的な「ウンチク」である。ノーチラス号の仕組みから海中生物の知識、さらには世界各地の見どころ情報までが濃密に詰め込まれている。かといって退屈かといえばまったくそんなことはなく、むしろ物語に彩りと深みを添えてくれている。

驚くべきは本書が書かれた年代である。なんと1869年、日本でいえば明治維新の年なのだ。その時点で、電気で動く潜水艦に世界中の海の生物、南極に至るまでの世界の描写に加え、なんとクジラやマナティの乱獲や絶滅の生態系への影響にまで言及していたのである(マッコウクジラは悪いヤツだからいくら殺してもいい、というくだりはいただけないが)。しかも、誰も見たことのない海底の神秘を鮮やかに描写し、サメや巨大タコの襲撃などの迫真のシーンも盛り込んで、超一級のエンターテインメントに仕立て上げているのだ。おそるべしジュール・ヴェルヌ、である。

そして忘れてはならないのが、語り手であるアロナックス教授と並ぶもうひとりの主人公、ネモ艦長の存在だ。鋼のような意思と冷静沈着なリーダーシップ、復讐となると我を忘れる激情家、弱き者、虐げられている者に手を差し伸べるヒューマニスト、乗組員の死に涙を流す部下思いの上司、そしてラスト近く、一隻の船を乗組員ごと沈めた後には「全能の神よ、もうたくさんです! ああ、もうたくさんです!」と苦悩する一人の人間(こんなシーンがあったことに、今回初めて気づいた)。その孤独なダンディズムこそ、本書のもうひとつの強烈な魅力なのである。