【1556冊目】中村うさぎ『私という病』
- 作者: 中村うさぎ
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2008/08/28
- メディア: 文庫
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デリヘル嬢体験記という、インパクト十分だがとっつきやすい入口から入ると、そのまま一気呵成に連れて行かれるのは、女の「性と生」の奥底。ひとりの「男」としては、けっこう驚かされ、かなりショックを受け、ちょっと反省させられた。
「男に欲情されたい」のではない、という。著者がデリヘル嬢になったひとつの理由は「男を欲情させたい」がためだった。この違い、わかりますか。「欲情されたい」は、受動的。「欲情させたい」は、能動的。
「そこに自分の意志が関わっているのなら、私は喜んで男の欲望の対象となる」
もっとも、それは単なる主体性ではない。その向こうにあるのは、自分を承認し、認めてほしいという欲求だった。第1章の「デリヘル日記」の最初のほうでは、その時の心理をこんなふうに書いている。
「ああ、お願い。誰か、私に欲情して。ホントは恋愛してほしいけど、そこまで高望みをするのが無理なら、せめて性的価値を認めてよ。私には女としての価値が、ほんの少しでも存在する? もしも存在するとしたら、それはどれくらい? できれば点数つけて欲しいくらいよ。そう、わかりやすく数字で提示されたいの。私という女の価値を」
著者はある意味「能動的」である。だがその奥には「価値をつけてほしい」という受け身の部分が、木に絡まるツタのように複雑にまとわりついている。たぶんたくさんの女性が、このような主体性と受動性がごちゃごちゃにまじり合う中でもがき苦しんでいるんじゃなかろうかと、私は読んでいて感じた。著者はそこのところを、複雑なままにピンポイントでえぐってみせた。
そして、問題なのは「男」である。電車の中で痴漢をして、職場ではセクハラをし、警戒すると「自意識過剰なバカ女」と小馬鹿にし、「太腿を触られるのはミニスカートをはいているほうが悪い」などと言い放ち、結婚すると妻を家具同然に扱うような、つまりは世の中の大半の男たち。
こういうどうしようもない男どものおかげで、女は引き裂かれる。性的弱者と性的強者に。おとなしいお姫様と残酷な魔女に。その境目を超えるのに有効なのは、化粧のようなコスプレと、源氏名のような違う名前。そうして「性的強者」になり、傷つけられた自尊心を取り戻すのは、たしかにひとつの勝利だろう。だがそれは、なんともせつなく、むなしい。
本書は男性のための本ではない。自分が引き裂かれた多くの女性たちのための一冊である。でも、男性もまた読むべきだ。自分たちのバカな振る舞いが、どんなことを引き起こしているのかを知るために。