【2600冊目】姫野カオルコ『受難』
なんというか、まあ、ものすごい作品であった。
男にとんと縁のない修道院育ちの「フランチェス子」。話しながら触れるだけで男を萎えさせ、バイブさえ破壊する「異能」の持ち主のアソコに、なんと人面瘡が出現する。しかもこの人面瘡、とんでもなく口が悪く、フランチェス子に向けてブス、ダメ女と罵詈雑言の嵐なのである。
この時点ですでにすごいことになっているのだが、この小説がものすごいのはそこから先、フランチェス子と「古賀さん」と名付けられた人面瘡が、なぜか心を通わせあい、最後には(ややネタバレになってしまうが)プロポーズまでしてしまうのだ。
モテない女をここまで容赦なく、どぎつく描き、読者を笑わせながらも決して不快にさせないのは、著者の腕だろうと思う(これでも不快、という人もいるかもしれないが)。そして、女性の自立だのキャリアの確立だのとなんだかんだ言っても女は男にモテて一人前、といったある種の価値観を、本書は人面瘡の語りという思いがけない方法で、ひっくり返し、笑いのめしているのだが、う〜ん、こんな方法があったのか!
ただ、そこに至るまでには、世の男性(私も含めて)には想像もつかない何重ものひねりが折りたたまれているのであって、その意味で、この本は本質的な意味で女性のために書かれた小説というべきなのかもしれない。ちなみに文庫本では、今は亡き米原万里さんの解説がついていて、これがまたケッサクなのでぜひ読んでほしいと思う。