【1364冊目】城山三郎『仕事と人生』
- 作者: 城山三郎
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 2007/05
- メディア: 単行本
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平成19年に亡くなった著者最後の連載エッセイに、佐高信氏との対談、そして著者に向けた追悼文が収められている。まさに城山三郎、最後の一冊だ。
経済小説のイメージが強い著者だが、大きな原点となったのは自身の戦争体験であると、本書を読んで初めて知った。17歳で志願して海軍に入り、最後に送られた油壺ではなんと水中特攻部隊に組み入れられた。「伏龍」という名前ばかりはカッコいいが、実際は竹竿の先に爆薬を付けて敵艦船に体当たりをするというひどい作戦で命を散らす寸前だったらしい。
そんな体験が「戦争で得たものは憲法だけ」という著者の言葉につながってくる。実際、特に佐高氏との対談を読むと、この人がいかに筋金入りの護憲論者であるかが伝わってくる。著者独特の反骨心も、ルーツはこの少年時代の原体験にあったということか。そういえば確かに、これまで著者が取り上げてきたのは、経済や政治のトップリーダーでありながら、どこかアウトサイダーじみており、それでいて一本スジが通った人物ばかり。
『粗にして野だが卑ではない』の石田礼助、『もう、君には頼まない』の石坂泰三はもとより、『官僚たちの夏』の通産省の役人たちもまた、ある意味でのスジモノたちであった。この読書ノートで取り上げた本で言えば『辛酸』の田中正造など反骨の権化のような人物だし、『落日燃ゆ』の広田弘毅に至っては、今にして思えば、著者の原点そのものがこういうカタチで小説となって現れたとしか思えない。
一方、それ以外の「城山三郎」についても本書はいろいろなことを教えてくれた。意外だったのは、かつての愛読書が『シートン動物記』で、子どもの頃の夢は「動物園園長」であるほどの動物好き、動物園好きであること。以前、かの江藤淳が「犬バカ」であると知って驚いたことがあるが、城山三郎の「動物好き」も、あまりにイメージと違っていてびっくりした。
なにしろ家の庭にアシカやオットセイを飼おうともくろんでいたほどの凝りようなのだ。でも、ゾウやシロクマに目を細める城山三郎の姿って、なんだかほほえましく、ホッとする。