【2556冊目】編集工学研究所『探究型読書』
著者が「編集工学研究所」となっているが、ベースになっているのは所長である松岡正剛の読書法。読書を読前・読中・読後の3つのフェーズに分けて、それぞれの段階ごとに行うべき内容を明確化、一定のフォーマットとして落とし込んでいる。
全体の印象は、失礼ながらいささか平板。自身ではなく松岡氏の読書法を「伝えている」というスタンスのためだろうか。本書の狙いは、松岡氏の読書法を一般化し、継承することにあると思われる。「探究型読書ノート」をダウンロードできるようにして、段階ごとに具体的なやり方を明示しているところなど、松岡読書術のマニュアル化、フォーマット化そのものだ。その良し悪しは別として、今後の(おそらくは松岡正剛亡き後を想定した)編集工学研究所の方向性のひとつを、この本は示しているように思われる。
読んでいて一番面白かったのは、探求型読書の学校現場への応用展開として紹介されている「Book Up!」という取り組みだ。これは6段階になっているのだが、一冊の本を取り出すところから始まって、最後はなんと「エア新書」といって、新たな空想の新書企画を立ち上げるところまでいくのである。このメソッドはすばらしい。いずれ全国の学校現場で取り入れてほしい。
ラストは対談3つ、ポーラの人事戦略部長、中高一貫校の副教頭、IMD北東アジア代表という異色の組み合わせなのだが、実はこの対談が本書で一番面白かった。やっぱり本は、書き手や語り手の「肉声」が感じられたほうが良い。
「著者の言葉や思考を『仮の器』としていったん使わせてもらう。それってすごい方法だなともいます。違う言葉に乗って、違う『器』を借りて考えることで、逆に自分に問い合わせがかかるんですよね」(株式会社ポーラ 荘司人事戦略部長)
「探究型読書の『目次読み』で行う『伏せて、開ける』という手法は、疑似的な飢え状態を作っていますよね。あのひと手間が手前にあることで、本をすごく読みたくなるじゃないですか。そういう細かい仕掛けはとても大事だと思うんですよ」(かえつ有明中・高等学校 佐野副教頭)
「ヒントは今の時代だけにあるわけじゃないですよね。人類はこれまで、いたるところでさまざまな変化を体験してきている。自分だけじゃないし、今だけじゃない、ということにしっかりと向き合って、自分の想像力次第で学べる素材はいくらでもある、とうことに気づくといいと思います。その時に『探究の結晶』である本をいかに活用するかというのが、さきほどからの話ですね」(IMD 高津北東アジア代表)