【44冊目】くさか里樹「ヘルプマン!」
- 作者: くさか里樹
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2004/05/20
- メディア: コミック
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現在「イブニング」で連載中の、「介護」をテーマとしたマンガ。
「高齢者介護」が現在の日本の抱える大きな問題のひとつであることには疑いがない。しかし、これを扱った小説やマンガは、驚くほど少ない。本書は、この困難なテーマに正面から切り込んだ、珍しい「介護マンガ」である。
家族介護のすさまじい実態や、人を人として扱うことすらできない施設の現状、介護の現場の苦悩や矛盾が、本書では容赦なく描かれる。一日中ベッドに縛り付けられたまま涙を流す老人。夫の親の介護に追い詰められていく妻。半身不随の実父を殴る息子。その有様はまさに地獄である。そして、これらが日本中の多くの家庭で今この瞬間にも起きているという冷厳な現実。
このような現状を救うために導入された介護保険も、また多くの矛盾を抱えている。時間に追われて機械的に業務をこなさざるをえないヘルパーやケアマネの現状。業者と癒着して不要なサービスを押し付けるケアマネ事務所。その谷間で次第に表情を失い、うつろな目をしたお年寄りたち。果たして介護保険とは何なのか、高齢者介護とは何なのか。この問いをこのマンガは絶えず読者につきつけてくる。
その答えはおそらく本書の二人の主人公、恩田百太郎と神崎仁の行動にある。彼らに共通するのは、高齢者や家族の「笑顔」を見たいという思いである。安直といわれるかもしれないが、介護の本質、福祉の本質に通じる何かがここにあるように思う。
複雑なシステムや多忙さの中でも、彼らはその本質を決してはずさない。その結果、恩田のように施設の秩序を乱し、クビになったとしても。介護の核心は、効率性にも利益率にもないこと、それは当事者たちの「こころ」にあることを、彼らの行動は教えてくれている(まあ、実際にはそううまくはいかないだろうと思われる、現実離れしている点は多々あるが、そこはマンガということで・・・・・・)。
介護保険は未成熟な制度である。昨今の新予防給付にしてもそうであるが、ほとんどのシステムは、あまり介護の現場を知らない役人や学者さんの理屈の押し付けにしかなっていない。それを批判することはたやすいが、多くのヘルパーさんやケアマネさんがすばらしいのは、その矛盾だらけのシステムの中で、あくまで「現実」を見据え、死に物狂いで奮闘している点だ。本書は、こういった「現場の力」というもののすごさをも教えてくれている。そして、お年寄りの「笑顔」がどれほどすばらしいものであるかについても。あまり知られていないが、介護というテーマを扱って成功した傑作だと思う。