【2819冊目】ロバート・L・スティーヴンソン『ジキルとハイド』
小学生の頃に児童書バージョンで読んで以来でしょうか。もっとも、読んだことはなくても、ほとんどの人がどういう話か知っているという意味では、文学史上もっとも公然とネタバレされている小説でしょう。再読してみて、あらためてそのことを強く感じました。
なぜかといえば、本書のメインであるジキル博士のところに出入りしている謎のハイド氏、突然のジキル博士の失踪、ハイド氏にかかる疑惑といったサスペンス要素が、「ジキルとハイドは同一人物である」ことを知っている時点でほぼ成り立たないのです。著者が思わせぶりな書き方をすればするほど、「だって同じ人なんでしょ」と読み手は思ってしまいますから。
そういう意味では、本書が刊行された当時(1886年)に、何も知らないままこの本を読めた人がうらやましい。薬を飲むことで作為的に人格が入れ替わるというアイディアと、にもかかわらずだんだんハイド氏に人格を支配されていくジキル博士の恐怖に、当時の読者はものすごくびっくりしたのではないでしょうか。
そう考えると、「善悪の二面性」といったテーマや多重人格ものの先駆として本書を捉える見方は、いかにもつまらなく思えてしまいます。結果的に「そういうテーマ」を描いているとはいえ、スティーヴンソンはむしろ読者を楽しませ、びっくりさせるためにこの物語を書いたのでしょうから(なにしろスティーヴンソンといえば『宝島』を書いた大エンタメ作家ですからねえ)。そういう意味では、この小説はたいへん不幸な世界的名作といえるかもしれません。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
#読書 #読了