【2805冊目】小川洋子『琥珀のまたたき』
その3人のきょうだいの生活は、いとおしくて、せつなくて、こわれやすいものでした。
末の娘を亡くした母は、娘は「魔犬」によって命を奪われたと思い込み、
残りの3人の子どもを、別荘に住まわせ、そこから出ることを禁じます。
魔犬の追跡を逃れるため、オパール、瑪瑙、琥珀と名前を変え、囁くような小さな声で会話する。
テレビもゲームもなく、あるのは別荘とともに父が遺した、何冊もの図鑑だけ。
そんな閉ざされた空間で3人のきょうだいが営む独特の生活を、本書はいつくしむように綴っています。
「オリンピックあそび」「事情あそび」といったユニークな遊びを考案したり、
庭から出てきた小物を死体の形に並べて埋葬したり。
かれらの境遇は、側からみれば虐待と言われても仕方ないようなものかもしれませんが、
かれらが不幸だったとは、どうしても思えません。
じっさい、後に「芸術の館」という場所で暮らすことになった琥珀ことアンバー氏は、
別荘を出てからの生活のほうが長かったにもかかわらず、
別荘でのことばかりを語るのです。それも、とても小さな、小さな声で。
ガラス細工のような、フラジャイルな日々。
でもそれは、まちがいなく、たとえようもない幸福な日々であったのです。
心に沁み渡る、小川洋子ワールド全開の一冊です。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
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