自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【2806冊目】イアン・スチュアート『若き数学者への手紙』



数学エッセイの名手イアン・スチュアートが、メグという女性に向けた手紙、という形式の一冊だ。メグとの関係ははっきり書いていないが、親戚のおじさんが同じ道に進んだかわいい姪っ子に手紙を書いているような、温かい文章になっている。タイトルはリルケの『若き詩人への手紙』の本歌取りかと思いきや、解説によれば、下敷きになっているのはハーディという数学者の『ある数学者の弁明』なる本とのこと。


それはともかく、本書には数学がいかに魅力的で、役に立つもので、つまりは生涯を捧げるに足るものであるかが繰り返し書かれている。著者によれば、そもそも私たちの暮らし全体が「数学の海を漂う小舟のようなもの」であって、飛行機が飛ぶのも電話がつながるのも(もちろんインターネットも)数学があってこそなのだ。


だが、本書の魅力はその先にある。仮に何の役に立たなかったとしても、それでも数学は、たとえようもなく美しいものであり、論理そのものの結晶のようなものであり、そして世界中の数学者をつなぐ共通の言語なのだ。世界のどこに行っても、そこには自分の論文を読んだことのある数学者がいて(論文を書いたことがあれば、だが)、暖かく迎えてくれる。数学者になるとは、そんな世界規模のクラブに入会を許されることであるらしい。


私自身は自他ともに認める数学オンチであって、本書に書かれているようなことは自分には無縁の「秘密の花園」のお話にしか思えないのだが、それだけにこんな世界に入ることができる人たちがうらやましいと心底思う。本書自体について言えば、横書きだが数式はほとんど登場せず、(私のような)数学アレルギーの持ち主でも、数学の魅力を垣間見ることのできる一冊なのだけれど。


最後までお読みいただき,ありがとうございました!


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