【2127冊目】群像編集部『21世紀の暫定名著』
これはユニークな試みだ。21世紀になってから刊行(翻訳も含む)された書籍から、100年後も残っているであろう「暫定的な名著」を選ぶのだから。100年後から今を振り返る想像力と、その中で今、目の前にある書物の価値を判定する眼力が問われる、本読みにとってはなかなかチャレンジングな一冊でもある。
内田樹、松岡正剛、佐藤優、上野千鶴子の4人が、選者として冒頭にずらりと並ぶあたりで「おおっ」と思う。それぞれ3冊ずつを挙げてもらうという設定も適切で、その組み合わせから選者自身の考え方が見えてくる。その後に出てくる中島岳志、荻上チキ、小川洋子、鴻巣友季子らも、まさに今の時代を代表する「本読み」にふさわしい。
だがそれ以上に面白いのは、一般書篇、日本文芸篇、海外文芸篇それぞれの「座談会」。3冊選書のメンバーとは顔ぶれは違うが、やはり名うての読書家、思想家、評論家が100年後を見通した書籍談義を展開する。それにしても、紹介された本が片っ端から読みたくなるのは困ったものだ。
いささか常軌を逸した現代の出版洪水の中で「読むべき本」を探すのは難しい。その中で本書は、今の時代を読む上での道標となるような、最重要の本を示してくれる。まあ、あまり「名著」にこだわりすぎても読書というのはつまらないのだが、文字通り「目印」としてはありがたい。なお、決して「硬い」本ばかりが取り上げられているワケではないのでご安心を。なにしろ佐藤優が挙げた3冊には湊かなえ『告白』が、荻上チキが挙げた3冊には沖田×華『ニトロちゃん』が、茂木健一郎が挙げた3冊には『ビル・ブライソンの究極のアウトドア体験』が入っているのである。
最後に、既読のもの、私が特に気になったものをメモっておく。誰がどんな理由で選んだのかは、ぜひ本書をあたっていただきたい。
≪既読≫
〇ミシェル・ウエルベック『服従』
〇村上春樹『1Q84』
〇岩井克人『会社はだれのものか』
〇鈴木健『なめらかな社会とその敵』
〇星野智幸『俺俺』
〇いとうせいこう『想像ラジオ』
〇ナオミ・クライン『ショック・ドクトリン』
〇水村美苗『日本語が亡びるとき』
〇中沢新一『カイエ・ソバージュ』
〇大野更紗『困ってるひと』
〇川上弘美『センセイの鞄』
〇堀江敏幸『雪沼とその周辺』
〇村上龍『半島を出よ』
〇桐野夏生『グロテスク』
〇小川洋子『猫を抱いて象と泳ぐ』
〇小川洋子『博士の愛した数式』
〇絲山秋子『袋小路の男』
〇今村夏子『こちらあみ子』
〇多和田葉子『雪の練習生』
〇町田康『告白』
〇中村文則『掏摸』
〇ウラジーミル・ソローキン『青い脂』
〇コーマック・マッカーシー『ザ・ロード』
≪新たに気になった本≫
〇ピーター・ウォード他『生物はなぜ誕生したのか』
〇ヘンリク・スベンスマルク他『”不機嫌な”太陽』
〇南辛坊・南文子『本人伝説』
〇綾屋紗月、熊谷晋一郎『発達障害当事者研究』
〇森元斎『具体性の哲学』
〇吉田知子『日本難民』
〇筒井康隆『ダンシング・ヴァニティ』
〇津島佑子『ヤマネコ・ドーム』
〇ビル・ブライソン『ビル・ブライソンの究極のアウトドア体験』
〇パスカル・キニャール『さまよえる影』
〇フィリップ・クローデル『リンさんの小さな子』
〇ダニロ・キシュ『砂時計』
〇ロベルト・ボラーニョ『2666』
〇ヴィクトル・ペレ―ヴィン『宇宙飛行士オモン・ラー』
それにしても、やっぱり読書は愉しいね。
では!