【2790冊目】秋田麻早子『絵を見る技術』
「君は見ているけど、観察していないんだ、ワトソン君」
シャーロック・ホームズの名台詞が冒頭に掲げられているのは、ダテではない。本書が解説しているのは、絵を「観察するように見る」ための手法である。
実際、本書を読み始めてすぐに、今まで自分がいかに絵を漫然と見てきたかを思い知らされた。絵の主役「フォーカルポイント」への着目、そこからの視線の動きを誘導する仕掛け、バランスをとるために置かれたアイテム、色の組み合わせ、そして周到に仕組まれた構図。名画と呼ばれるような絵ほど、偶然の一致ではとても済まされないくらい、驚くべき仕掛けに満ちている。
もっとも、こうしたことの多くは本来、われわれが無意識のうちに感じていることだ。本書はそれを意識化しているにすぎないのだが、それでも、意識して見ることで、絵画鑑賞の愉しみが数倍になることは保証する。
思えば今までは、絵の横の「解説」ばかりを気にして、絵そのものに向き合えてこなかったのかもしれない。なんともったいないことか。せめて今度からは、絵そのものに身を委ね、そこに隠された美の法則を探すようにしてみたい。
最後までお読みいただき,ありがとうございました!