【2791冊目】乙一『銃とチョコレート』
ロイズ。ゴディバ。リンツ。ドゥバイヨル。モロゾフ。ブラウニー。ガナッシュ。共通点は何か、わかりますか?
答えは、チョコレート。どれもチョコのブランドか、チョコを使った菓子の名前です。そして、これらはすべて、本書の登場人物の名前でもあります。この小説の登場人物は「チョコがらみ」なのです。さらに言えば、出てくる地名もチョコ関連。徹底しています。
主人公の少年リンツは、亡き父の形見の聖書から出てきた一枚の地図がきっかけで、名探偵ロイズと怪盗ゴディバの戦いにかかわっていきます。ところが、展開は意外に意外を重ね、予想は次々に裏切られます。正しいと思っていたことが裏切られ、子供時代の純粋な思いは、ほろ苦い大人の現実の前で打ち砕かれます。それでもやはり、少年リンツは自らが正しいと思うことのために、自らの足で立ちあがり戦うのです。
本書はミステリというジャンルで括られますが、本質は児童文学だと思います。子供時代に別れを告げ、大人の世界との境目で、自分だけの戦いの場と、大切な人を発見していく、という意味で、そうなのです。乙一がこんな作品を書いていたことに驚きましたが、展開の仕方やキャラクターの描写はさすがにうまいです。特にドゥバイヨルという少年の描き方は素晴らしいです。人種差別主義者で乱暴者でありながら、後半になるに従って、奥に秘めた矜持や強さが見えてくる。お見事です。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
#読書 #読了