自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【2788冊目】竹本健治『涙香迷宮』


※ややネタバレに近い記述があります。未読の方はご注意ください。




いろは歌、というのがありますね。いろはにほへと、ちりぬるを・・・・・・という、旧仮名遣いの48音すべてを一度だけ使った「歌」のことです。


本書はこの「いろは歌」が主役のひとつとなっています。それも、なんと48通りの「いろは歌」が次々に披露され、どれもが歌としてもおもしろく、その上、その中に暗号が仕込まれているのです。まあ、驚天動地というか、前人未到というか。その凝りようは、暗号ミステリの中でもトップクラスです。


そして、もうひとつの主役が黒岩涙香という人物です。明治時代に活躍し、「萬朝報」という当時もっとも売れた新聞を主宰する一方、『巌窟王』『臆無情』といった翻案小説の傑作を世に送り出しました。さらに五目並べを「連珠」として発展させたり、競技かるたの統一ルールを制定したりと、まさに異能の存在。その涙香がさまざまな仕掛けとともに遺した山荘が、本書の舞台となっています。


台風で閉ざされた山荘で起きた殺人事件と「いろは歌」をめぐる謎が絡み合う絶好のシチュエーションで、とにかく一気に読まされます。そして明かされる真相は、読んでいて『アマデウス』を思い出しました。天才モーツァルトを、その天才性ゆえに憎む凡人サリエリのゆがんだ切なさ。まあ、このあたりはネタバレになりそうなので、このへんにしておきましょう。


それにしても、最後のなぞなぞの答えって、なんなんでしょうね。みなさん、わかりましたか?


最後までお読みいただき、ありがとうございました!