【2787冊目】フローベール『三つの物語』
フローベール晩年の短編3篇が収められています。フローベールは長編小説が有名ですが、短編も素晴らしいですね。
中でも「聖ジュリアン伝」はものすごい。実はこの作品はポプラ社の「百年文庫」にも収録されており、読むのは2度目なのですが、やはりこれは頭抜けた傑作だと感じます。人間のもつ善と悪の極限を描き切り、しかもその両者がみごとに統合されている。
思い出すのは、予言と宿命に翻弄されるという点ではギリシャ悲劇かシェイクスピアの四大悲劇(とくに『マクベス』)、善と悪の極北を同時に描くという点では、ドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』あたりでしょうか。意外なところでは、手塚治虫の『ブッダ』が、同じような試みに挑戦していますね。
「素朴なひと」は、無知で愚かな善とでもいうべき人間を描いた作品です。こちらはトルストイ、あるいはドストエフスキーでは『白痴』のムイシュキンに近いかも知れません。風景描写の美しさや人物描写の的確さは、こないだ読んだ『ボヴァリー夫人』を思い出します。
「ヘロディアス」は古代を舞台とした異色の小説で、もっとも「フローベールらしくない」作品といえるかもしれません。内容はワイルドの『サロメ』に重なりますが、もっと複雑に折り畳まれ、あえて言えばわかりにくい結構となっています。しかし、それがかえって際立った異様な読後感を残します。
翻訳もたいへん読みやすく、巻末の解説も含め、充実した一冊となっています。フローベール入門にもオススメです。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!