【2776冊目】一木けい『1ミリの後悔もない、はずがない』
「新潮文庫の100冊2021」全冊読破キャンペーン99冊目。
過去と現在が交錯する連作短篇集。著者のデビュー作とのことですが、信じられない完成度です。
冒頭のシーンから、イカを捌いていたら中から魚が丸ごと出てくるところが生々しく描かれていて驚かされます。イカのぬめりや内臓の感触まで感じられそうな文章です。
実際、この人の文章は読む人の肌感覚にまで食い入ってくるようなところがあります。忘れられないのは、夫の実家での鍋のシーンです。各自が皿に取った具材を鍋にぼとぼとと戻し、ご飯を入れて雑炊にする気持ち悪さに、夫の実家での妻の孤独が重なってきます。その後の高山とのセックスシーンも、なんとも生々しいものでした。
貧困。いじめ。居場所のなさ。現実が過酷で理不尽であればあるほど、恋愛がひとすじの光のように輝くという、これはそんな小説です。そんな恋愛は、だから美しいというより、なんとも痛々しく、哀しいものに見えてしまいます。
著者の小説はこれがはじめてでしたが、感性は吉本ばななの初期を思わせます。今後が楽しみな作家です。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!