自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【2732冊目】清水潔『殺人犯はそこにいる』


新潮文庫1002021」全冊読破キャンペーン54冊目。


読んでいて、腹が立って仕方がなかった。拷問まがいの「自白」と間違いだらけの「鑑定」で、一人の人間が有罪となり、死刑となる。そんなことが許されるのか。


許されるのである、この国では。足利事件の菅家氏は著者らの活躍もあって再審無罪となり釈放されたが、九州の「飯塚事件」では、再審を求める声にもかかわらず、死刑が執行されてしまった。この「飯塚事件」では、DNA鑑定のネガフィルムのうち、都合の悪い部分が見えないよう、切り取って証拠提出されていたという。


そして本書では、冤罪が生み出すもうひとつの問題点も指摘する。真犯人が野放しになってしまう、ということだ。足利事件では、半径10キロ以内で連続して起きた5件の幼女誘拐殺人のうち、1件だけが「解決済み」とされ、残り4件は放置されてきた。マスメディアも警察や検察の「大本営発表」を垂れ流し、そのことに目をつぶってきた。彼らもまた、冤罪を生む大きな構造の一部なのだ。


そんな中にあって、著者がなぜ独自の調査報道を貫くことができたのか。それは著者が、警察や検察の発表よりも「小さな声を聞く」ことを心がけてきたからだろう。被害者やその遺族、無実の罪で獄中にいる者の声を。そして、先入観に囚われず、ちょっとした違和感を大切にして、自らの足で調べたことだけを記事や番組にしてきたからなのだ。


だが、それは著者にしかできないことなのだろうか。この国には、第二、第三の清水潔はいないのだろうか。著者の孤軍奮闘ぶりを見ていると、そんなことも心配になってしまう。警察やマスメディアはもうダメだろうけれど、そんな骨太の、在野のジャーナリストがもっとたくさん登場してくれれば、この国ももうちょっとマシになるのではないだろうか。


最後までお読みいただき、ありがとうございました!