自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【2667冊目】中山七里『連続殺人鬼カエル男』


以下、ネタバレに近い記述がありますので、未読の方はご注意ください。

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う〜ん。ミステリとしては面白いのかもしれないけど、私には合わなかったようです。欠陥が目につきすぎて、謎解きの面白さよりストレスのほうが多かった印象でした。


グロ描写は、あまり必然性を感じませんでしたが、まあいいでしょう。暴動や暴力シーンの冗長さも、ハリウッド映画を観ていると思えば我慢できます。某海外ミステリと似ている(偽装された無差別殺人に加え、「犯人」側の視点を導入して読者をミスリーディングするやり方もそっくりです)のも、オマージュというには稚拙すぎますが、これも時々あることです。


一番気になったのは、刑法39条とか精神障害者の犯罪とか、あるいは犯罪被害者の救済についての触れ方が、なんとも中途半端なこと。著者自身が問題意識をもってこのテーマに取り組もうとしているとは思えない(だとしたら「異常者」とか「狂人」といった言葉の使い方が無造作すぎます)のに、どこかで聞いたようなステレオタイプな「正論」ばかりが声高に語られています。マスコミの描き方もステレオタイプそのものです。性的虐待のようなセンシティブなテーマを、人間がモンスター化するための理由づけだけのために、安易に組み込んでいるのもいただけません。


あと、犯罪の重要なツールとなる「ベースキャリー」についてですが、移動用に車輪がついていますので、室内で楽器を置く時は外すのが当たり前ですから「室内でコントラバスがベースキャリーに乗せられている」のは考えにくい。それに、本体は車輪と小さな台がついている程度のものなので、身を守るには不十分ですし、これで○○○を運ぶなど不可能です(これで用を満たすなら、市販のキャリーカートで十分)。


事実上の第一作ということで、編集者のチェックが入らなかったということなのかもしれませんが、それにしてもあまりにお粗末。かのクリスティの名作には遠く及びません。やはりデビュー作は『さよならドビュッシー』のほうでよかったのかもしれません。


最後まで読んでいただき、ありがとうございました!