自治体職員の読書ノート

自治体で働くソーシャルワーカーが、読んだ本を紹介します。

【2369冊目】『少女架刑 吉村昭自薦初期短篇集1』

 

 

「死体」「青い骨」「さよと僕たち」「鉄橋」「服喪の夏」「少女架刑」「星と葬礼」の7篇を収めた、吉村昭の初期短篇集。

歴史小説や「プロジェクトⅩ」的熱血成功譚のイメージが強い吉村昭が、初期にこんな作品を書いていたことにまずびっくりした。もっとも後年の傑作の中にも、『破船』のようなブラックな味わいの作品もあるにはあるが、これも時代はだいぶ前。一方、本書に出てくる小説はいずれも(書かれた当時の)現代である。

史実をベースにしたものではなく、吉村昭の頭の中で生み出された異様な着想がもとになっている。共通する特徴は、いずれも「死」を大きく扱っていること。というより「死」をきっかけに浮かび上がる「生」を、死の方向から照射している、というべきか。

例えば冒頭の「死体」では、事故で電車に轢かれて死んだ男を軸に、隣家の女性(人妻だが、実は死んだ男性とも関係をもっていた)の心の動きを描く。「鉄橋」もやはり轢死から始まるが、こちらは将来を嘱望されたボクサーが死んでいる。一見自殺とも事故とも縁のなさそうなボクサー北尾だが、意外な事実が次々と明らかになり、いわば北尾の死によって、それまで見えなかったものが白日のもとにさらされる。その上で最後に明かされる北尾の死の理由にも驚かされる。

再読だが初読時に仰天したのが表題作「少女架刑」で、これはなんと死んだ少女の視点から、少女が(つまり自分自身が)病院に運ばれ、解剖され、火葬されるまでのプロセスをつぶさに描くきわめつきの異色作だ。「星の葬礼」は、個人的には本書中のベスト。葬儀となると必ず顔を出す知的障害のある少年を中心に、思いがけない形で「生と死」が展開する切ない小説だ。

それにしても、この人に「若書き」という概念はないのだろうか。実は本書を読んでもうひとつ驚かされるのが、一つ一つの作品の完成度の高さである。贅肉のない、それでいて見事に情景が浮かぶ文章、深みのある人物造形、そして意外きわまるストーリーテリング。後年の作品と趣は違うが、吉村昭は最初から吉村昭であったのだ。