hachiroetoのものぐさ遊読帖

自治体職員。仕事は福祉系。読書は雑食系。

【2625冊目】宮崎克・吉本浩二『ブラック・ジャック創作秘話』


決して「上手い絵」ではない。だが、やたらに「熱い」。その熱量は、手塚治虫の、そしてその周囲に集まった人々が生み出したものだ。


アシスタントも編集者も、手塚治虫に関わった人は、誰もがそのままではいられない。世の中には、ときどきそういう人がいる。出会っただけで周囲を巻き込み、人生を変えてしまうような人が。


教えるのがうまかった、というわけではない。むしろ手塚治虫自身の、マンガに向き合う姿勢、締め切りを過ぎようが何晩徹夜が続こうが、決して妥協しない姿勢に、周囲がいわば勝手に感化されるのだ。「ブラック・ジャック」一話を作るのに3通りの話を作る。描いたマンガのコマを切り取って並べ直し、配列を考える。8本の作品の原稿を目の前に並べ、同時並行で仕上げていく。とにかくとんでもない人なのである。


本書で一番驚いたエピソードは、アメリカから「電話で」マンガを描き上げるシーンである。「2ページの4コマ目は、三話前のブラック・ジャックの6ページ3コマ目の校門を中央やや下に」「次のコマは、4話前の『三つ目がとおる』の9ページ2コマ目の校舎と、『ブッダ』前々回14ページ5コマ目の木々を組み合わせて」といった具合に、電話で指示を出していくのだが、なんとその目の前には、一冊の資料すらなかったのである。


今回は主に第1巻を取り上げたが、続く巻もとんでもないエピソードがてんこ盛りなので、いずれまた紹介したい(ちなみに全5巻完結)。どの話でも印象的なのは、大変なエピソードばかりなのに、それを語る元アシスタントや元編集者が、実に生き生きして楽しそうなことだ。それほどに、彼らにとって、手塚治虫という存在、手塚治虫とともに送る日々は格別だったのである。