自治体職員の読書ノート

自治体で働くソーシャルワーカーが、読んだ本を紹介します。

【2260冊目】原田マハ『奇跡の人』

 

奇跡の人 The Miracle Worker (双葉文庫)

奇跡の人 The Miracle Worker (双葉文庫)

 

 

この「読書ノート」で取り上げるのは初めてだが、原田マハの作品は、休止中に何冊か読んでいた。著者の思いが詰め込まれた『楽園のカンヴァス』、絵画を通して大きなテーマに挑んだ『暗幕のゲルニカ』が忘れがたい。

アートに関する作品が多い中、本書はいわば「和製ヘレン・ケラー」で、一見あまり関係なさそうに見える。だが、冒頭と結末で登場する津軽三味線が、いちおう芸術と絡んでくる。本書の主人公の一方というべき「三重苦の少女」介良れんの友人であり、れんの能力を大きく開花させた「きわ」の存在だ。この「きわ」の存在のために、本書は単なる「和製ヘレン・ケラー伝」とは異なるものとなっている。

ただ、全体の構成から考えると、やはり「きわ」の存在感は、その物語上の重要性に比していかにも軽い。「きわ」がいなくなるプロセスも、失礼ながらいささか取ってつけたような印象を受けた。というか、やはり本筋である「ヘレン・ケラー伝」の物語の力が強すぎて、オリジナルの部分が弱くなってしまったということなのだろう。

やはり本書の眼目は、青森の名家の中で「いないことにされてきた」少女れんが、徐々に人間らしさを取り戻し、能力を開花させるプロセスにある。サリヴァンならぬ「去場安」先生の「教育」も、ホンモノのサリヴァン先生を思わせつつ、明治時代の日本という舞台でしっかりリアリティを保っている。そして、筋書き自体にものすごい牽引力があって、一気に読まされる作品になっている。

とはいえ、これらはやはり、もともとの「ヘレン・ケラー伝」が持っている「物語の力」なのだと思う(ノンフィクションであっても、同時に本質的な意味で物語たりうるのだ)。著者はおそらく、そこに新たな要素を加えようと抗うよりも、もっとこの物語原型に乗っかってしまってよかったのではないか。もっともっと、オマージュに徹してしまってよかったのではないかと、読みながら感じていた。