【1684冊目】武富健治『鈴木先生』

- 作者: 武富健治
- 出版社/メーカー: 双葉社
- 発売日: 2006/08/11
- メディア: コミック
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- 作者: 武富健治
- 出版社/メーカー: 双葉社
- 発売日: 2011/04/28
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教育・学校本12冊目は、中学二年のクラスを受け持つ「鈴木先生」を主人公としたマンガにした。
「給食酢豚中止騒動」や「先生の人気アンケート」など日常的なエピソードから、中学生のセックスと避妊といった重い重いテーマまで、鈴木先生と2年A組の生徒たちにはとにかくいろんな事件が起きる。全11巻のうち主に前半は、こうした事件への対応がメインとなっている。
圧巻は、どのテーマにも登場する、鈴木先生の「語り」の濃密さだ。とにかく今時のマンガにはありえないほど、コマの中にセリフがぎゅうぎゅうに詰まっている。しかもその内容に、どれひとつとして「通り一遍」のものがないのが、スゴイ。
鈴木先生の言葉は、道徳や常識といったものに絶対逃げない。すべてが鈴木先生の中で考え抜かれ、鍛えられた言葉となっている。だからこそ、その言葉は生徒に伝わる。いっさいのごまかしがないからこそ、相当難しく複雑なことを言っているのに、中学二年生というもっとも難しい年頃の子供たちに届く。
ただし、伝える側に妥協がないからこそ、聞く側である生徒もまた、中途半端には聞き流せない。だから2年A組の生徒たちの思考力やディベート力は鍛えられる。そうした流れの中でも前半のクライマックスというべきが、できちゃった婚をすることになった鈴木先生を生徒が取り囲む「鈴木裁判」だろう。なんとここでは中学生同士が、先生を「被告」にしつつ、「なぜ避妊しないでセックスをするのか」「結婚とは何か」「妊娠とは何か」といった超重量級のテーマをガンガン議論するのである。
もちろん、真剣勝負ばかりでは息が詰まる。本書は鈴木先生を中心とした「言葉の濃度」だけではなく、クールでめちゃめちゃ可愛い女の子「小川さん」をめぐる先生の妄想が炸裂したり、中学生同士の恋のさやあてのようなほほえましいエピソードが散りばめられていて、読むほどに自分の(実にイタかった)中学生時代を思い出す。実際、いろんなキャラの生徒や先生が登場するので、誰もがこのマンガを読めば、当時の自分や友達、先生をこの中に見つけることができるのではないか。
後半は生徒会選挙、そして文化祭が中心となるが、ここでは鈴木先生の演劇指導が圧倒的だ。しかもこの演劇指導、演劇を通して人生そのもの、現実そのものを生きる訓練にもなっている。到底「中学生の文化祭レベル」じゃないのである。
ほかにも精神を病んでしまう教師、保護者による吊るし上げ、事なかれ主義の行政などの現実もたっぷり描かれ、それだけにその中で、鈴木先生の教えが透徹している。欲を言えば、すでに完結してしまっているマンガなのだが、できれば「イジメ」と「自殺」についても取り上げて欲しかった。人を自殺に追い込むようなイジメが2年A組で起きたら、鈴木先生はどんな言葉を発するだろうか。