自治体職員の読書ノート

自治体で働くソーシャルワーカーが、読んだ本を紹介します。

【2525冊目】ミシェル・マクナマラ『黄金州の殺人鬼』

 

 

ある意味、フィクションでは絶対にありえない一冊だ。事実だけがもつ重み、真実だけに感じられるやるせなさ。450ページ以上を一気読みさせる、ド迫力のクライム・ノンフィクションだ。

 

1974年から1986年にかけて、50人以上の女性を暴行、13人の男女を殺害した「アメリカ史上最も凶暴な殺人鬼」がいた。その存在が一般にほとんど知られていないのは、そいつが完全に逃げおおせていたからだ。

 

この連続暴行殺人犯に「黄金州の殺人鬼」という名前を与えたのが、本書の著者ミシェル・マクナマラだ。俳優の夫と一人の娘をもち、ネット上に「トゥルー・クライム・ダイアリー」というサイトを立ち上げて、誰に命じられることもなく、数十年前にぷっつりと消息を絶った犯罪者を、10年をかけて追跡した。そのほとんどは、ベッド上に座り、パソコンの画面を通して膨大な捜査資料を点検する孤独な作業だったという。

 

その執念が実って殺人犯が逮捕された・・・となれば、まさに映画のようなハッピーエンドなのであるが、残念ながらそうはならなかった。著者はなんと、本書の完成を待たずして、わずか46歳で就寝中に息を引き取ってしまったのだ。その後1年8か月をかけて、本書は夫の雇ったライターによって書き上げられた。驚くべきは、わずかその2か月後に「黄金州の殺人鬼」が実際に逮捕されたこと。最初の犯行から40年が経っていたというから、まさに執念の逮捕劇である。

 

ただし、ここが本書をめぐるリアリスティックな事情となるのだが、公式には、本書の内容が逮捕に影響を与えてはいない、とされているのである。だから本書は「犯罪ブロガーの作家が警察を出し抜いて犯人を突き止めた!」みたいな話ではないのだ。だが、本書の醍醐味はそうした「結果」ではなく、むしろ犯人を捜しあてようという著者の執念そのものにあるように思う。そして、著者がこの犯人を追い求める大きな理由が、この犯人の残酷さ、悪辣さだ。スティーヴン・キングがこの本を評して言うように、これは「気が滅入るほど邪悪」な殺人鬼と「聡明かつ、断固とした決意」でその正体を追い求める著者の、闇と光の対決の物語なのである。