【2365冊目】吉田秋生『ラヴァーズ・キス』
インスタグラムからの転載。
里伽子の視点から藤井との恋愛を描く1周目は、ベタなラブストーリー。だが、同じ時間軸を、2週目は友人の鷺沢、3周目は里伽子の妹のえりの視点から描きつつ、意外な出会いと恋の交錯を重ねていく。
男と女、だけではない。男と男、女と女の恋もある。そこを絶妙にからませつつ、中心にあるのは藤井という謎めいた男の存在だ。なぜ彼は一人で暮らしているのか。なぜ学校をやめるのか。その真実に触れた瞬間の痛みを知った時、えりは同時に、「あえて知らないでいる」やさしさと想いの深さを知るのである。
BANANA FISHのようなバイオレンスもヒロイズムもない。だが、痛みとせつなさに満ちた若き日の恋情の世界は、やはり吉田秋生の独擅場なのだ。