自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【2645冊目】姫野カオルコ『彼女は頭が悪いから』


2016年に起きた、東大生らによる強制わいせつ事件をもとに書かれた小説です。とはいえ、興味本位の内容ではありません。本書の大半は、事件に至るまでの、加害者の一人と被害者の女性、それぞれの日々を丹念に綴るものです。


それは事件の後に起きた「被害者女性」バッシングへの答えでもあります。彼女がどういう人で、どういう人生を送り、どうしてこのようなことになってしまったのかを丁寧に追うことで、「ついていった女が悪い」のような非難がいかに的外れであり、事件の背後に加害者側のどのような病理があったのかを明らかにしているのです。


さて、犯罪を扱った小説やノンフィクションはいろいろありますが、本書はかなり「胸糞」度が高めです。なぜでしょうか。


この種の本では、多くの場合、やむに止まれぬ事情であったり、悲惨な養育環境であったり、あるいは抑圧や鬱屈であったりと、何らかの「加害者側の要因」が描かれています。それは、必ずしも納得できるようなものではないかもしれませんが、少なくとも人の心の闇であったり、貧困の罪であったりを考えさせるものになっていることが多いように思います。


ところが、本書で描かれる「東大生」には、そういう要素がまるでないのです。著者も何度も書いているとおり、彼らの心は「つるつる」なのです。物事を深く考えることもなく、ただただ目的に邁進してきた人たちの、薄っぺらく引っかかりのない精神。


それは、彼らの親も同様です。事件が明るみに出た時の親の反応はひどいものです。彼らは誰一人、被害者の女性に心から詫びようとしていません。「かわいい東大生の息子」の罪を軽くするために、小細工を弄するのみなのです。たぶん、彼らもまた、息子たちのやったことの何が悪かったのか、本当にはわからないままだったのではないでしょうか。


彼らが東大生の代表だと言うつもりはありません。むしろ、東大生の中でもかなり人間的に壊れている連中だったのでしょう。しかしそれでも、今テレビで流れている、東大生の頭の良さや知識量をもてはやす番組を見ると、なんとも複雑な気分になってしまいます。東大生たちが被害者の女性を酔い潰すのに使ったのが、まさに「知識量」を武器にした山手線ゲームなのですから。


最後まで読んでいただき、ありがとうございました!